第二章 エルマンの準備 ――ある噂――

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 フィーネは鍵を扉から引き抜いた。  白いヤツガシラ、それにいつの間にか牛車を降りていたトーマに、展開した鍵を見せながら記憶を手繰って説明する。 「玄関の錠は、わたしとハルトと父の声だけに反応して解けるに造られています。普通に鍵を回せば施錠はできますが、鍵に記録された波長(トーン)の声でないと解錠できません」  払子を手にしたトーマが、感心したように何度もうなずく。 「定められた声を受けた時にだけ鍵の音叉が共鳴して、扉の錠を開くということですね。素晴らしい。婚約者殿の才能と技量は本物とお見受けしました」  ハルトへの賞賛を受けて、フィーネの胸がじんと熱くなる。  しかしすぐに膨れ上がった不安が重く痞え、フィーネは鍵を手にしたまま立ち尽くす。  うなだれた彼女の耳元に、ヤツガシラが優しく囁いた。 「元気をお出しなさい。アナタたちには、あたしたちがついているんだから。決して悪いようにはしないから、安心なさいな」 「……はい。ありがとうございます」  おずおずと顔を上げたフィーネの脇で、トーマが扉に手を延ばした。  そして突き立てられたナイフをゆっくりともぎ取ると、柄をそっとフィーネに差し出す。 「こんなものは外しておきましょう」
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