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フィーネは鍵を扉から引き抜いた。
白いヤツガシラ、それにいつの間にか牛車を降りていたトーマに、展開した鍵を見せながら記憶を手繰って説明する。
「玄関の錠は、わたしとハルトと父の声だけに反応して解けるに造られています。普通に鍵を回せば施錠はできますが、鍵に記録された波長の声でないと解錠できません」
払子を手にしたトーマが、感心したように何度もうなずく。
「定められた声を受けた時にだけ鍵の音叉が共鳴して、扉の錠を開くということですね。素晴らしい。婚約者殿の才能と技量は本物とお見受けしました」
ハルトへの賞賛を受けて、フィーネの胸がじんと熱くなる。
しかしすぐに膨れ上がった不安が重く痞え、フィーネは鍵を手にしたまま立ち尽くす。
うなだれた彼女の耳元に、ヤツガシラが優しく囁いた。
「元気をお出しなさい。アナタたちには、あたしたちがついているんだから。決して悪いようにはしないから、安心なさいな」
「……はい。ありがとうございます」
おずおずと顔を上げたフィーネの脇で、トーマが扉に手を延ばした。
そして突き立てられたナイフをゆっくりともぎ取ると、柄をそっとフィーネに差し出す。
「こんなものは外しておきましょう」
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