8

2/7
277人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
 翌日、慎は紺野を呼び出した。横浜駅で待ち合わせをして逗子行きの電車に乗り込む。  紺野は相変わらず顔色が悪かったが、先日の別れ際のような悲愴な表情ではなかった。  慎の中にはいつしか紺野に対するシンパシーのようなものが生まれつつあった。それはきっと慎が、本当の恋を知ったからだ。  かつて兄のように慕っていた頃の、優しげで人を柔らかく包み込むような佇まいは今も変わっていない。  慎は本当にこの人が好きだった。今更のように、そのことを思い出す。  その人と、十三年の時を経て、いま再びこうして肩を並べているのが不思議だった。だがその間に刻まれた日々は重く、過ぎたことだと片づけるには、互いの傷はあまりに深かった。 「突然誘ってしまって、すみませんでした。身体、大丈夫ですか。あまり顔色が良くない」 「大丈夫だよ」  紺野は柔らかな眼差しで微笑んだ。淡いクリーム色のセーターが色白の肌によく似合っている。優しげな雰囲気が雪弥を思い出させ、慎は苦しい想いを振り切るように、例の写真を取り出し、紺野に見せた。 「これは?」 「数日前に届いたんです。色んな人の手を経て。――おそらく、父からです」  紺野がハッと息を呑んだのが判った。それから怖々と探るように慎を見る。 「前に俺に訊きましたよね。お墓のこと、何か聞いてないかって」  紺野の目が大きく見開かれる。 「その答えがここにあるかもしれません」
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!