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「腹へったな」
寮に戻ると慎は呟いた。夕飯は食べたが、かきこんだだけだったので空腹を覚える。だが食堂は既に閉まっているし、二人で緊張しながら肩を並べて歩いてきたので、コンビニに寄ることなど頭に浮かびもしなかった。
「じゃ、な」
慎が自室の前に来て、ぎこちなく手をあげると、雪弥は頷いた。が、慎がドアに手をかけたところで、遠慮がちな声がかかった。
「簡単なものなら、作れるけど」
「え?」
意味が判らず振り向いて問い返す。
「お腹、空いてるって」
先ほど、半分間を持たせるために慎が言った言葉をすくい取って、雪弥は言ったのだ。
慎がじっと見つめると、雪弥は自分のシャツの腹の辺りをぎゅっと掴んでいる。それだけを言うのに随分勇気を振り絞ったのが判った。熱いものが慎の胸にこみ上げる。
「作ってくれるのか」
返した声も心なしか掠れていた。雪弥がぎこちなく頷く。
廊下に誰もいなくてよかった。まるで放課後の告白のような甘苦しさに、慎は思わず苦笑した。
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