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 それから二人は互いの部屋を行き来するようになった。  雪弥は慎のために料理を作り、慎はそれを残さず平らげることで雪弥を喜ばせた。  そのあとはただ隣に座り、テレビを見たり、雪弥が作品を作るのを慎が眺めたりして過ごした。  肩が触れ合うたびに甘い痺れが起こり、どちらからともなく口づけを交わした。慎はそのたびに烈しい劣情と闘わなくてはならなかった。雪弥が同性であることが、それ以上先へ進むことを思いとどまらせていた。  本音を言えば、もう思うままに雪弥を裸に剥き、その柔肌をあます所なく愛撫して、その最奥へと欲望を突き立ててやりたかった。  雪弥を凌辱する夢は数えきれないほどに見た。けれど現実には雪弥の唇しか奪わない。  雪弥がその先を望んでいることも判っていた。雪弥は何も言わなかったけれど、ある日盗み見た雪弥のスケッチブックの最後のページには、慎の横顔が描かれていた。紙面の隅に「S.T」と慎のイニシアルが小さく書かれていて、それが雪弥の秘めやかでありながら、確かに息づく慎への熱い想いを表していた。  本当は判っていた。雪弥の自分に対する感情は初めから友情などではない。  けれど慎はそれに気付かないふりをした。いくら雪弥を(けが)す夢を見たって、その唇を貪ったって、それが単なる「肉欲」であれば、まだ逃げ道はある。そう言い訳して、危うい感情から目を逸らし続けた。  明確な言葉を伝えないことで、雪弥を不安にさせていることも判っていた。  けれど慎にはその言葉を雪弥に伝えることは、どうしても出来なかった。  何故なら、慎にとって、雪弥を愛することは「絶対に」許されないことだからだ。  
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