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 その翌日の土曜日、慎宛に一通の手紙が届いた。母からだ。慎はすぐに封を開けた。  中にはさらに一通の封筒が入っていた。宛名は宝井慎様となっており、数日前の消印が押されていた。それが父が死んだ町の消印であることにドキリとする。  手紙は以前三人で暮らしていた横浜の家の住所に宛てられており、郵便局がそれを転送してきたものだった。  転居してからもう何年も経つのにどうして母の現住所に転送されてきたのか。それは母が転送期間を延ばし続けてきたからに他ならない。  そう気づいて慎は母の心を改めて覗き見た気がした。  父からの手紙がいつか届くかもしれない。そう思って父との、蜘蛛の糸のように細い絆を大切につなぎ続けてきたのだろう。  そして手紙は届いた。  しかし差出人の名は、慎のまったく知らない男性のものだった。  茶封筒の封を切ると、さらにもう一通の薄っぺらい封筒が入っている。  慎はまず重野(しげの)というその人物からの手紙を読んだ。達筆な文字で、重野が父の元同僚であること、父が生前、自分に何かあったら同封してある手紙を投函してほしいと重野に託していたこと、職場を変わっていたため、父の死を知るのが遅れたこと、それゆえ慎に届けるのが遅くなってしまったことなどが丁寧な詫びの言葉とともに綴られていた。  慎の名前で母の元に届いたのは、母が転居届に慎の名前を加えていたからだろう。  最後の封筒の宛名には、やはり慎の名前が書かれてあった。右肩上がりの特徴的な文字を、慎は何故かハッキリと憶えていた。  それは慎が小学生の頃に使っていた、リコーダーの袋に書かれていた慎の名前の文字と酷似していた。大きく堂々と書かれたそれは、父が慎のために書いたものだったと記憶している。  慎はしばらくその文字をじっと見つめてからハサミで丁寧に封を切った。  中には一葉の写真が入っていた。どこかの寺の写真だ。山門から本堂を写したもので、参道の両脇に並ぶ桜の木が花弁を散らし、そこかしこを薄桃色に染めていた。  裏を返すと宛名と同じ文字で「K寺」とだけ書かれてあった。  慎は封筒の中をもう一度覗いたが、手紙やメモの類は入っていない。  慎はその美しい寺を食い入るように見つめた。  これは父からのメッセージだ。  慎は携帯でその寺の名前を検索した。  寺の所在地はすぐに判明した。慎は寺のHPを開き、中を読み進めるうちにハッと目を見開いた。  
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