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学生服姿の叶多は廃旅館の2階にいた。
階段前のエントランスに置かれてたコンクリートの破片を椅子にし、腰掛け、コンビニのおにぎりを食べている。
左手にスナックのお菓子を乗せ、横にいたそれに差し出す。それは触角を伸ばすと、スナックに絡みつき、包み込むと、スナックの形状をしていたものが小さくなる。こうしてそれは生物を吸収して食べている様子だ。
それの周りには開けられたコンビニご飯がいくつか置かれていた。
それ見てから、叶多は自分の財布の中を見る。10円1円が数枚だけの中身である。
叶多は立ち上がる。
「またごはん、もってくるね」
そう言って、おにぎりを食べてしまうと、開けていなかったサンドイッチの袋を開き、それの横に置く。
「じゃあね、マル」
と申し訳なさそうな言い方で、叶多は言った。
学校の美術室。
前と同じ席で叶多は絵を描いている。
美術の先生が生徒たちを見て回り、一人ずつ話かける。
先生は叶多の後ろに立つ。
「佐藤、どう?」
叶多は「そんなに」
とそっけなく答えた。
「先生、あの」
叶多は言う。
「なんだ?」
叶多は画用紙の端に鉛筆で文字を書く。
今日は何時?
「これ、どうしたら、いいですか」
それを見た先生は小さく微笑むと叶多の鉛筆をそっと取り、9時と叶多が描いた文字の横に描いた。
叶多の教室。
机の上に給食のお盆。そこに白米とおかずの魚と野菜、味噌汁が乗っている。
白米の上に黒いひじきのようなものがかかる。
叶多はそれを見ている。
かけているのは原だ。
「はいねりけし」
「せっかくかけたんだから残さず食べろよ」
「うん」
と言うと、叶多は白米を食べる。
「うわ、食った」
「きっしょ」
「やべえじゃん、頭おかしいんだこいつ」
三人は口々に言う。
叶多は給食を完食した。
叶多は廃墟にいるマルを思い出す。
弱々しくしていたマルを思い出す。
叶多はねりけしのかかったごはんを握りしめ、原の口めがけておしつける。
叶多の勢いに負け、原は後ろに倒れ込む。叶多は左手で原の学生服の首根っこを掴み、白米を口に押し続ける。
原は逃れようと、叶多の左手を引き剥がそうとするが力が強いのか叶多の手は原の首に縫い付けられたように離れようとしない。教室にいた生徒がなにもできずに端に集まる。教室の前の扉が開くと、そこに女性の教師が「やめなさい!」と強めの口調で割り込んできた。
夜。
美術教師と叶多は二人裸のままベッドの上に寄り添うように座っていた。
先日、叶多が先生に連れて来られた部屋だ。
「相手は怪我、しなかったのか?」
先生は叶多に聞く。
叶多の頬の上に自分の喉仏をこすりつけるようにしながら、叶多の額にキスをする。
「してない」
「佐藤らしくない。いつもはおとなしいのに」
叶多はなにも言わない。
「物静かなところがお前の良いところだ。まあ、日頃君は痛い目にあっているんだ。それくらいのこと…、むしろ優しいくらいだ」
「君は優しい、優しいんだ」
「先生、今日、お金いっぱいちょうだい。とられたんだ」
「うん、わかった」
先生は叶多を抱きしめた。
「佐藤、またきてくれな。一緒にご飯をたべよう」
叶多が自宅に入る、部屋の中は暗く、叶多は慣れた様子で階段を上がり自室の前に立ち、ドアノブに手をかける。
階段から誰かが駆け上がる。
父親だ。
「お前、今日、クラスやつ殴っただろ」と言い切るまえに叶多の額を殴りつけた。
叶多の足元がふらつく。
「親が来たんだよ、親が!関係無い俺を謝らせるんじゃねえ!ふざけたことしやがってバカが」
叶多を壁に叩きつける父。
部屋に戻った叶多。
財布を取り出し1万円札3枚を叶多は期待の眼差しで見つめていた。
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