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12
父親と祖母が二人向かいあってリビングで食事をしている。
それに目もくれずに叶多は財布を持って自宅の玄関から勢いよく駆け出していく。
廃墟の中に入ると叶多は階段の方を見上げながら「マル」と言う。
「マル、マルー」
叶多が廃屋の5階でそう言うと、どこからともなく肉塊は姿を現し、ずるずると自身を引きずり叶多に近づいていく。
「マル、今日はたくさんもってきたよ」
叶多は慣れたように魚肉ソーセージを細かくちぎり、手のひらに乗せて、肉塊のマルに与える。
マルは触手を伸ばして叶多の額、手に触れてくる。
「マルって名前、飼ってた柴犬の名前
車に、轢かれちゃった
おばあちゃんに叩かれて、驚いて、逃げて
もう覚えてない、この事、おばあちゃんは。マルを叩いたこと。お父さんも忘れてた」
叶多はマルを撫でる。マルは叶多の額に触手を当てるとむくむくと蠢きだした。
「病人は人を殺してもいいのかな、マル」
叶多は諦めた様子で言う。
マルから小さな足が小動物のように四本生える。
目を見開く叶多。
「そう、マルもそんな感じだった」
叶多は嬉しそうに言った。
マルは叶多の膝からぴょんと飛ぶと、4本足を使ってよろめきながらも床を歩き始める。頭部がない胴体だけの生き物が走る。徐々に駆け出すのを見て叶多は嬉しさを表情に出す。
歩きだして足元がおぼつかない子犬のようにマルは途中で転んでしまう。
叶多は急いで駆け寄りマルを抱き起す。
「大丈夫?」
見てみると転んだ衝撃で前足が胴体の中にめり込んでしまっていたが、ゆっくりと前足が生えてもとに戻った。
「すごい、マル」
マルのめり込んだ前足が伸びていき、叶多のひたいに触れる。
すると、叶多の脳内に映像が流れていく。
暗い空間
氷の中に閉じ込められたみたいにそこは冷たい
ポツンと一つ
白い光
太陽
青い星
近づいていく
だんだん
体
火に
包まれて
そこで映像は途切れる。
「マルは、宇宙からきた?」
マルは胴体から触手を伸ばしてゆらゆら手を振るように揺らす。叶多はそれを見て微笑む。
「すごい
僕も行ってみたい
テレビ見たことある。地球、きれいなのかな」
叶多は腕時計を見る。
「行かないと」
叶多はマルを下ろし、床に置いたカバンを背負う。
「また明日」
叶多はマルに微笑みながら手を振ると、廃屋をあとにした。
夜の街、カラオケ店の前に着く叶多。周りを見渡す。腕時計を見る。時間が過ぎていた。
後ろから見覚えのある、先生の車がやってきた。
叶多は乗る。
「この辺り2周したよ」
「ごめん」
先生は叶多を見る。
「制服、上、」
叶多は自分の体を見ると、学生服を着たままだった。脱ぐのを忘れていた様子の叶多、急いで制服を脱ぐ。
「もう、いいよ」
先生は車を走らせた。
先生の自宅に着くと、叶多は先生の指示で服を脱いでベッドの上に座った。先生もネクタイを外して、前ボタンを外して行く。
「珍しい、遅れるなんて」
叶多は膝を曲げて抱えるようにして座る。
「用事でもあった?」
「いや、ない、」
先生は叶多の腕を掴んで押し倒して覆いかぶさった。
叶多をうつ伏せに組敷いて、先生は叶多の後ろを犯し続ける。
ベッドに顔を埋めて、苦しい声をこらえる叶多。
叶多が片腕を振り払って先生を押しのけようとする。叶多のその態度に先生は行為をやめて叶多から体を離す。
うつ伏せの叶多の体を見下ろす先生。
「痣、無いね」
気まずそうに先生は言う。
「うん、」
「治ったんだ」
「うん」
先生はため息をついて床に脱いで置いたシャツを拾う。
「ご飯の準備してくる」
先生は寝室から出ようとドアに向かう。
「いい」
叶多が言う。
先生は立ち止まり、叶多の方を振り返る。
「今日は、大丈夫。帰る」
叶多は腰を重たそうに動かして立つとベッドに散らばった自分の服を掴んだ。
「…ああ、そう、」
先生は面食らったように言う。
車で家の近くまで送ってもらった叶多。
ドアに手をかけて降りようとする。
「今日、美味しいの用意してて、数日は持つから、また来てよ」
「うん」
「あっ。あの」
叶多は思い出したように言う。
「な、なに?」
先生は期待した様子で聞く。
「お金、」
「あっ…、そうだ、そうだった」
先生は財布からお金を取り出す。1万円が2枚と千円札が2枚。
「多めに、渡すよ」
「うん」
「じゃあ」
叶多は降りてしまうと、車を一瞥することもなく自宅に歩いて行く。
先生は叶多が振り返る様子が無いと察すると車のハンドルを握り、アクセルを踏む。
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