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13
平日、朝。
伊藤は教室の自分の座席に怯えた表情を浮かべながら座っていた。
それを尻目に教室にいる生徒たちは落ち着かない、騒がしい様子だ。
数人の生徒の中の誰か達が言う。
「丹治くん自殺したんだって」
「うそ、」
「え、殺されたって聞いたよ」
「ううん、自殺かどうかはわからない」
「原くんは行方不明みたい」
「おとといから見つかってないんでしょ?」
「まじで?」
「隣のクラスの原くんの幼馴染から聞いた」
「じゃあなんで伊藤くんは来てるの?いつも三人だったじゃん」
生徒たちの視線が伊藤に向けられる。
耐えられなくなったのか伊藤は席から立ち上がり、廊下に出ようとした。
所でかばんを持った叶多と教室の出入り口で鉢合わせになる。
伊藤は叶多の姿を横目で見ながらすれ違うようにして教室を出た。
叶多は自分の席に着き、自分の机の中から、授業で使うのだろうか、教科書とノートを取り出す。
その一連の様子を教室の入口に溜まっていた生徒が好奇の目で見ていた。
「佐藤が殺したんじゃねえの?」
生徒の一人が小さな声で言った。
同時に授業開始のチャイムが鳴る。
生徒達が席に着き始めると、叶多の担任の女性教師が教室の後ろの扉から入り、「佐藤くん、ちょっといいかな。廊下に出て貰える?」と叶多の耳元で囁き、叶多を廊下に連れ出す。
それと入れ違いに違う教師が教室に入り、扉を閉める。
閉められた扉から、「突然ですが、1時限目は自習になりました」と男性教師の声が聞こえる。
廊下に連れ出された叶多の腕をさすりながら、女性教師は悲しみを抑えながら
「佐藤くん、びっくりするかもしれないけど、丹治くんが事故で亡くなったの」と言う。「それでね、先生にお話を聞かせてほしいの。いいかな」
担任の先生の後ろに付いてやってきたのは職員室前の演習室。
入ると6畳ほどの広さの部屋にコの字にテーブルを並べられている。
先に部屋にいたのは30代くらいの女性と隣に20代くらいの若い男性。二人ともズボン姿のスーツ姿だった。片方の女性は長く刑事をしているのか眉間にシワがより、ずっと睨みをきかせているように見える。それに比べて男性のほうは穏やかな顔をしているため、新人の刑事であろうことが伺える。
2人はスーツの内側に手を入れると、叶多とその担任に向けて出したのは警察手帳だった。
「☓☓署の大村です」と低い声で女性が言う。
「同じく、羽切です」と若い男性が言う。
叶多は状況が飲み込めないと言った風に二人を交互に目で見る。
叶多の担任は二人に向かって会釈をすると、叶多を怖がらせてはいけない、安心させようと彼の背中に手を当て少し腰を曲げ、叶多と目を合わせる。
「佐藤くん、この方たち、警察の方なの。丹治くん、原くんのことでお話聞きたいんだって」
担任は心配するように言った。
「佐藤くん、丹治くんたちとよく一緒にいたでしょ?どうして、丹治くん、あんな事したのか、調査したいんだって。お話してくれる?」
叶多は担任と合わせていた視線をそらす。それを見た大村は一層眉間にシワを寄せた。
「先生もいるから、大丈夫だよね」
担任は顔を上げると、叶多を刑事二人が座るテーブルの真向かいに座らせる。
担任は叶多の隣に座る。
大村は机の腕で両手を組み、少し前かがみになり話し始める。ここまで自然な動作だったので、これが彼女の癖なのだろう。
「もう知ってると思うけど、君と同じクラスの丹治さんと原さんが3日前に行方不明になった。そしてさっき、この学校近くの城山の廃墟で丹治さんの遺体の一部が見つかった。原さんと丹治さんの持ち物もあった」
大村は淡々と話す。
「佐藤くんはこの三人とよく一緒にいたんだってね。先生から聞いたよ」と温和に叶多に話しかける羽切。
「行方不明になる前、聞くと、この日も君を含めて他の三人も普段通り、登校してきた。学校の帰りに事件に巻き込まれた可能性があります。放課後、何をしていたのか聞かせてくれないかな」
大村と羽切が話をしている間ずっと自分の膝の上にある手を見ていた叶多。目を合わせようとしない彼の顔を伺おうと、大村は覗き込む。
「聞かせてもらえる?」
口を開こうとしない叶多に担任は心配した様子で再び彼の背中に手を当て
「佐藤くん、話せる?」と言う。
「クラスの生徒さんに聞いたんだ。最後に合ったのはいつ?」
羽切が優しく語りかける。
「城山のあの家」
「会ったんだ?」
叶多は頷く。
「君は何しに行ってたの?」
叶多は俯いたまま口を動かさない。
「餌を、あげに」
ようやく叶多が口を開いた。
「野良猫かなにか?」
叶多は頷く。
「三人ときたの?」
叶多は頷く。
「それからは?」
叶多は「餌をあげてた」と小さな声で言った。
「3人で?」
叶多は頷く。
「そっか、」
しばらく、沈黙。
教室の空調の音が大きく聞こえる。
「まだ、原くんたちのこと、生徒たちに詳しく説明できていません。動揺しているんですみんな。そんな話、しないでください、」
担任の先生が言う。
大村は前かがみになっていた身体を起こし、背筋を伸ばす。冷ややかな目で担任に目を向ける。
「あの三人、佐藤くんに暴力を奮っていたみたいですね」
先生は逃れるように目をそらす。
「血が出るまで殴る、蹴る。教室で彼を裸にさせて集団で性暴力も行っていたそうじゃないですか」
大村は責め立てる。
担任はうつむいた。
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