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「だからって、佐藤くんがやったなんて、それは言い過ぎだと思います!」
担任は声を張り上げた。
「佐藤くんが殺したなんて言ってませんよ」
大村はおとなしくしていた叶多に目を向けた。
「他になにか、おじさんたち、警察に言うことないかな」
羽切が聞くと、叶多は俯いたまま何も言う様子が無い。
「佐藤くん、」
担任は叶多の肩を抱く。
叶多は話さなくなった。
「ご協力ありがとうございました。また、話を聞きに来るかもしれない。その時はよろしく」
大村が言う。
叶多は何も言わなかった。
その日、夜。
☓☓葬儀場と書かれた建物に叶多の通う学校の制服姿の学生たちが入っていく。
丹治の笑う写真が置かれた葬儀場。
丹治綾斗(たんじあやと)の葬式が行われているようだ。
一連の流れを終えやってきた生徒たちがポツリポツリと神妙な顔で棺の中の丹治の顔を見ている。
開きっぱなしにされていた葬儀会場の入り口に叶多が様子を伺うようにして立っていた。どうやら今会場にやってきた様子である。
女性担任が近づき叶多に声を掛ける。
「佐藤くん、来ないかと思った、」
叶多は口を開こうとするのに気づかず担任は叶多の背中を押し、丹治の遺体が入った棺の前まで連れて行く。
「お焼香のやり方はわかる?」
先生が心配そうに言う。
叶多はまるで聞いていない様子で棺の中の丹治を悲しみの表情でみつめる。
そんな叶多の姿を先に焼香を終えた生徒たちが声を潜めて話を始める。
「佐藤くんだ」
「よくこれたね」
「大丈夫かな佐藤くん」
「伊藤くんは来てないの?」
「え、だって佐藤が殺したんでしょ?」
会場の一番前の席に座っていた女性が立ち上がり、棺の前に立っていた叶多の肩に掴みかかった。
肩を強く後ろに引っ張られた叶多は驚いた顔で後ろに振り返る。
目を見開き、怒りの形相で叶多を見ている。
「…あなたが殺したの?」
女性の声は震えている。
「あなたが、あなたがあの子を殺したの?ねえ、ねえ!!」
隣に立っていた夫らしき男性が「やめろ」と女性を叶多から引き剥がすと女性は顔を悲しみの表情で歪め、両手で顔を抑えくぐもった声で泣きながらしゃがみこむ。
叶多は困惑の表情でそれを見ていた。
その帰り、バス車内。
帰宅中のであろうサラリーマンが3人と叶多はバスに揺られている。
一番後ろの窓側に座り、外を見ている叶多。
停留所にバスが止まると、叶多は降りる。大通りから離れ、閑静な住宅に入り、自宅の前に立つ。
玄関戸を開き、中に入り、靴を脱ぐ。
リビングの前を通った所で叶多はリビングを覗き込む。
リビングでは祖母と父親が食事を取っていた。叶多はリビングに入る。
父親は叶多を汚いものでも見るような目でにらみ、すぐにテレビに目を戻す。
叶多は無言で自分でご飯をよそい、冷蔵庫から出した卵をかける。冷蔵庫から魚肉ソーセージをひとつ持ち、箸を持ってリビングから出て行く。
叶多のいなくなったリビングで
「今の子は誰?」と祖母。
「さあ誰だろうね」と父親が吐き捨てるように言う。
叶多が部屋に入るとベットの下からマルが姿を現す。
マルは床でビー玉を転がして遊んでいた。
「ただいま。マル」
中型犬ほどの大きさになったマル。四足歩行で近づいてくる。
「だめだよマル」
叶多はマルが転がしていたビー玉を取り上げる。いつものベッドの枕元定位置に置く。
「これ大事なやつ」
叶多はマルに笑いかける。
「ごめんね、遅くなって。お腹すいたでしょ」
叶多はマルの近くに来ると、魚肉ソーセージの袋を開けて、手からマルに与える。
「おとなしくしてた?」
マルは体をまたゴムのように伸ばすと魚肉ソーセージをまるごと飲み込んだ。
「四足で歩いちゃだめだよ、音が下に響くよ」
叶多はソーセージを食べるマルを寂しげな表情をしながら撫でた。
「お母さんが泣いてたんだ。悲しくて」
食事をするマルの様子を微笑ましそうに見つめる叶多。
「僕も死んだら心配してもらえるかな」
テーブルに置いておいた卵のかかったご飯の入った茶碗に手を添える。
叶多は箸を持ち、黄身に刺してかき混ぜた。
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