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15
学校、叶多の教室。
「原くん」
叶多は机に座っていた原に言った。原は不愉快そうな顔で叶多を見る。原と話をしていた丹治と伊藤も同様のようだ。
「城山、いかない?」
叶多は言う。
「は?」
鬱陶しそうに言う原。
「行かない?」
「行くわけねえじゃん」
「隕石、見つけたんだ」
「だから?」
「原くん、見つけてって言ってた」
原は叶多から顔を背ける。
叶多は原に近づくと左手で髪の毛を鷲掴み軽々と手前に引く。
原は痛みで声を上げる。
「行こう?」
叶多は言う。
原は叶多の手から逃れようと抵抗するが、力が強いのか敵わない。丹治と伊藤も萎縮しているのか見ていることしかしていない。
放課後。
4人は城山の廃旅館の前に立っている。
チェーンをまたぎ、敷地に入る叶多。
三人は躊躇しながらも後に続いて入る。
「隕石、旅館の中にあるんだ」
叶多は探検隊の隊長のように先頭に立ち楽しそうに廃旅館に入って行く。
他三人は身を寄せ合うようにして廃墟の入り口付近で立ち往生している様子だ。
「原くん」
原は階段の下から2階を見上げる。
いつの間にか2階に上がったのか、叶多が原を呼ぶ。
「隕石、こっちだよ」
原は足取り重く2階へと上がる階段を登る。
「原くん原くん」
原が階段を上がりきったところで2階廊下の階段先の奥から叶多の声がする。
原は声のする部屋に歩いて行く。
廊下は瓦礫だらけだ。
ふすまが開きっぱなしの部屋の前に立ち、原が顔を先に除き込むようにして部屋入る。
部屋は客間のようだ。原は「おい、佐藤」と言いながら部屋の中に数歩、歩く。
原の後ろ。
叶多が鉄パイプを顔の横まで振りかぶっている。
そのまま原の頭部を殴りつける。
鈍い音と甲高い鉄の音。
予想だにしていなかったのか、衝撃で倒れ込んだ原は殴られた後頭部を抑えることもなく、叶多を見る。
叶多と原の目が合う。
叶多はまた鉄パイプを振り下ろす。原の顔面に直撃する。
頭部を狙ってゴルフクラブをでボールを打つように、下から上へと殴る。殴っていないところを一つも残さないように原の顔を殴りつける。
鉄パイプに血が絡みつく。
周辺に壁に、叶多の顔に飛び散る。
「なにしてんの」
丹治の声。
叶多は振り返る。部屋の入り口に目を丸くしている丹治が立っている。
叶多は床に横たわる原に目を戻す。
頭部が血まみれになった原は動かない。
叶多は丹治に目を戻し「あ、ねえねえ丹治くん」と言いながら駆け寄る。
血のついた鉄パイプを持つ叶多。
丹治は堰を切ったように声を裏返し叫びながら走り出す。
伊藤は階段の手すりを使いながら2階へと階段を上がっている。あがりきった所で走ってきた丹治と体がぶつかる。
その反動で体勢を崩したのか、丹治は階段を転がり落ちる。
手すりにしがみついていた伊藤。
階段下に目をやる。
階段下で丹治は仰向けになったまま動く様子が無い。
伊藤は呆然といった様子で見ている。
「伊藤くん。丹治くんどこ?」
叶多の声。
はっと我に帰った様子の伊藤は叶多を見る。
「わ、わかんない」
伊藤は慌てた様子で頭を左右に振りながら言う。
再び伊藤は階段下に目を向け、慌てて降りていく。
丹治の横に立ち、彼の肩を揺らす。
反応がない。
伊藤は膝を着き、両手で丹治の体を大きく前後に揺らす。
丹治の体は伊藤の手の動きに合わせて揺れるだけである。
伊藤は仰向けになっていた丹治の顔に目をやる。
丹治の瞳孔は自分の額に目を向けんばかりに上を向いている。
瞳孔は動かない。
「あ…」と伊藤は何かに気づいたように言う。
階段の上に顔を向ける。自分を見下ろす叶多と目があう。
「死んでる」
伊藤は言った。
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