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16
叶多の言葉を聞いた伊藤は体の軸を失ったように壁に寄りかかりそのまましゃがみこむ。
ほんの少し、死んだ丹治を見た伊藤。
何か思いついた様子でズボンのポケットを触る。「救急車」と言いながら階段を急いで降りる。
旅館の入り口に置いていたカバンの口を開き、スマホを取り出す。
その伊藤の手を叶多はつかみかかり、スマホを強引に奪い取ると旅館の壁に叩きつける。
「な゛に゛すんだよォッ!!」
狂ったように伊藤が叫ぶ。
そのまま、地面にうずくまり、顔を腕にうずめて泣き出す。
「ごめん、バレちゃいけないと思って」
叶多は言う。
伊藤はうずくまったまま泣いている。
「伊藤くん、どうして泣いてるの?」
叶多が不思議そうに聞く。
「俺ちがう、ちがう、ちがうちがう違うちがうちがう」
許しをこうように伊藤は何度も「ちがう」と言う。
叶多は伊藤の横に立ち彼の背中をなだめるように擦る。
伊藤はがばりと起き上がり、叶多の胸を殴りつける。
叶多は後ろに倒れる。
「お前のせいだ!!お前が俺らを連れて来るから!」
涙ながらに伊藤が言う。
叶多は伊藤の顔を見つめ悲しそうな表情を浮かべる。
「伊藤くんが言うなら、そうなんだね。伊藤くん、全部僕が悪いよ。僕が悪い」
叶多はまるで子供をあやすように微笑んだ。
「だから、悲しまないで。伊藤くん。伊藤くんは僕の最初の友達だから、泣いて欲しくない。全部僕のせいでいいよ。だから泣かないで」
伊藤は神聖なものでも見たような表情になる。
それを見て叶多は優しく笑う。
「でも、どうするの、」
死んだ丹治のことだろうか、伊藤は不安そうに言う。
「伊藤くん、来て」
叶多はおいでおいでと手招きをしながらまた廃旅館の中に入る。伊藤は引き寄せられるようにして入る。
叶多は原の死体がある部屋に伊藤を連れていった。
原の死体を見て伊藤は狼狽したがすぐに「伊藤くん」と叶多の呼ぶ声に気持ちがかき消されたる。
どこからか連れてきたのか、人間の内臓を一纏めにしたような肉塊を両腕に抱え部屋に入った叶多。
それを見せつけるようにして、伊藤に向けて持ち上げる。
「マルだよ」
伊藤は驚愕した様子で目を見開く。
「…マルって、」
伊藤はマルと叶多の顔を交互に見る。
「マル、おまたせ。ごはんだよ」
叶多はマルを原の死体の上にのせる。
マルは触手を体から伸ばし、死体をつついていく。触手を死体にから見つけていくと、大きく体をゴムのように伸ばし、死体を包む。
「やった、食べれるって」
原の死体を飲み込んだマルを見て叶多は手を叩いて喜び、それを分かち合うように笑顔で伊藤の顔を見る。そしてほっとした表情で原の体を飲み込んだマルの姿を見る。
「良かった、食べられなかったらどうしようって思ったんだ」
そう言った叶多。
伊藤は目を見張った。
それから、死体を飲み込み中で吸収していっているのか徐々に元の大きさに戻っていくマルと叶多の血だらけになった白のワイシャツを見た。
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