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24
赤黒い。空。
この一瞬に何が起こったのかわからない。
目蓋を動かす。
赤黒い幕が目尻から流れ落ち、ようやく、空の色が見えた。
オレンジ色。
いま私は仰向けに倒れている。
目の周りが乾いて動かしづらい。
それに身体が動かない。何か乗っている。
マルは身体の上に乗る何かを手で掴んだ。
人の肩。
顔を横に向けると、頭の半分が砕けた佐藤叶多がマルに顔を向けて横になっていた。
目が開いたまま動いていない。
マルは彼の肩を揺らすが、叶多は起き上がりそうにない。
もう動きそうにない。
マルは身体を起こし、叶多の身体を支えるようにして腕に抱える。
空への道筋が消えてしまった。
叶多の亡骸を抱えるマルを銃を構えた人間たちが周りを囲む。
彼らは先程からなにをしているのかマルにはわからない。
銃声。
マルの額を銃弾が貫通する。
これをする理由がマルにはわからない。
マルは何も反応を示さず、マルの肩側にうなだれる、動かない叶多の顔を眺める。
マルの顔に飛び散った叶多の乾きかけの血が肌を伝って下に流れていく。
マルは上を向いた。先程よりも濃くなったオレンジ色の空。
一羽のカラスが飛んでいく。
どうして佐藤叶多は動かないのか、マルにはわからない。
マルの額から真下に向かって黒い線が浮かび上がり、そこから左右に身体が割れると身体は大きく口をゴムのように縦横無尽に広がり叶多の身体を丸呑みにした。
叶多を飲み込んだマルは徐々に形を変え、佐藤叶多の姿へと変わった。
動いた。
佐藤叶多が動いた。マルは思った。
叶多の姿になったマルの背中から大きな翼が生えると空高く飛び立つ。
マルが向かったのは、宇宙ロケットの発射施設。
発射までもう少しの所。
マルはロケットの先端に降り立つと、液状になり、ロケットの中へと溶け込んでいく。
そしてロケットは人の指示も聞かずに勢いよく地面に向かって火を吹き出し、大地を覆うほどの大量の煙を巻き上げ、ロケットは上空に向かって飛び上がった。
地上にいる人々の目からは数秒も立たずにロケットは夜空の星ほどの小さな光になる。天高く続く、煙の塔は風に吹かれて消えていった。
大気圏を抜けるとロケットの下方が砕けていく。やがてロケットのすべてが砕けると中から叶多の姿が現れた。
叶多の姿をしたマル。
叶多の姿をした地球外生命体。
マルは宇宙空間を泳ぎ、月を通り過ぎていく。
マルは後ろを振り返った。
地球が指先2本でつまめる程の大きさになっていた。
マルは少しの間指先に収まった地球を見つめると、地球から背を向け、遠く遠く、真っ暗でなにも無い、どこまでも続く宇宙の暗闇の果てへと消えていった。
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