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5
美術室と書かれた札の教室。
次の授業が美術なのか、生徒たちが次々中に入っていく。そこには叶多の姿もあった。
美術室の中は後ろに流し台、木の大きな机が6つ並べられ、そこに生徒が4~5人ずつ椅子に座る。
チャイムが鳴る、と同時に教科書類を片手に持った男性教師が教室に入ってきた。
そのまま黒板前の机の前に立つ。
日直の掛け声で、起立、礼、着席。と生徒たちが動く。
叶多のいるクラスの人数は30人。
美術教師は話始める。
「今日は誕生月を題材に絵を描いてもらいます」
美術教師は今日やる美術制作の内容を生徒たちに伝える。
A3サイズの画用紙が全員に配られ、各自作業を始める。
一番奥の窓側の席に座っていた叶多、9月生まれなのか花畑の中で月を見上げるウサギの絵を鉛筆で薄く下書きをしていた。
鉛筆一本で濃淡をつけ、下描ききだけでもうまさが伝わる絵を描く。
生徒一人一人に声を掛けてアドバイスをしていた先生。
次に叶多の方に近づいて行く。
静かに、そっと、叶多の後ろに立ち、少し眺めの髪の間から覗かせる首元に目を落とした。
突然叶多が先生のいる後ろを振り返る。
先生が後ろにいたことに気づいていなかったのか一瞬だけ驚いた表情をしていた。
絵を描くことに集中していたらしい、そんな叶多に先生は笑いかける。
「佐藤、いいんじゃないか?今回も」
先生は叶多の横にしゃがみ込む。
教室を正面から見ると先生の体はテーブルに隠れて見えない。
「誕生日は?」
先生は叶多の顔を見上げながら話す。
「9月」
「そっか。だからお月見か」
ウサギの足元に咲く花に目を向けた先生。
「その花は?」
叶多は少し目をぱちぱちさせる。
「…赤い、」
名前が思い出せないのか、なんとか絞り出した様子の単語をぼそっと言う叶多。
「彼岸花?かな」
先生が言うと、叶多は頷いた。
それを見て先生は困った顔をして笑う。
「彼岸花か、ちょっと縁起悪いかもな」
「これしか知らない」
「ああ、そっか。…じゃあ、こうしたらどうかな?」
先生は叶多が持っていた鉛筆を取ると、画用紙になにやら文字を書いていく。
画用紙に描かれたうさぎの耳元に書かれたため、まるでうさぎが誰かに囁かれているようにも見える。
今日は?
文字を見て叶多は先生を見る。
先生は文字を書いた手元に目を向けたまま。
叶多はテーブルの上に置いてった筆箱から、シャープペンを取り出し、先生の手元の近くに文字を書き始める。
なんじ?
先生はその文字を見て口を閉じたまま笑う。
8時 いつもの所
叶多はそれを見て、「はい」と小さな声で言う。
先生は鉛筆の後ろを叶多に向け「ありがとう」と言う。
叶多は鉛筆を手に取り、再び絵を描き始める。
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