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7
毛布にくるまったままソファの上の端にうずくまるように座る叶多。そのソファを背もたれに床に座り、先生はスマホの画面でなにやら映像を見ている。
内容は叶多が先生に犯されているのを撮影した動画。
先生が今見ていたのを閉じると、他にいくつもの動画が流れ出てくる。先生は指で画面をスライドさせ、一つの動画をポンと指で押して再生する。
叶多から見て先生の口元は上に上がって見えるので、楽しんで見ているように思える。
「楽しい?」
叶多は言う。
先生は一度彼を見る。
「これ?」
スマホを持っている手を少し上げてこれを示す。
叶多は頷く。
先生は穏やかな顔で言う。
「叶多も観る?」
叶多は首を横に振った。
「あはは、そうだよな」
先生は腹のそこから笑って言った。
その後すぐに先生はスマホの画面を閉じて、ソファの前のテーブルに置いて、立ち上がり、シャツを着る。
「叶多、体洗ってきたら?その間にご飯の準備をするよ」
「うん」
「隣の部屋から適当に服取ってっていいから」
言われた叶多はシャワーを浴び、先生から借りたパーカーを羽織ってリビングに戻ると先生がテーブルの上にカレーを並べていた。
「ああ、上がってきた。さあ座って。ご飯食べよう」
叶多と先生は向かい合ってテーブルに座る。
叶多はスプーンを持ってカレーを口に運ぶ。
先生はそんな叶多の様子を見つめながら同じく食べる。
「叶多、うまい?」
「うん」
先生は照れくさそうに小さく笑う。
「レトルトだけど、これなかなか美味しいんだ」
「前のよりは、おいしい」
「少し高めなんだ。値段が」
先生はカレーを口に運ぶ。
食べて、飲み込む。
叶多も食べて、飲み込む。
先生はテーブルにあるコップを持ち、水を飲み、元に戻す。
「叶多は、高校に行かないの?」
叶多がスプーンでカレーを手前に寄せる。
すでに半分食べている。
「もう、今、勉強してない」
先生はスプーンでカレーを突き始める。
まだ半分以上残っている。
「美術の専門に行ったらどうだ?叶多は絵が上手いんだ。なんなら俺から推薦も出せるし、…今からでも間に合うと思うが」
先生はカレーを手前に寄せる叶多を見る。
「絵描くの、あんまり好きじゃない」
叶多は言いながらカレーを口に入れる。
「働くのか?」
「わからない」
叶多は咀嚼しながら言う。
飲み込み、カレーをすくう叶多。
「なあ、叶多」
先生は言う。
叶多はもうすぐカレーを食べ終える。
「もし家を出るなら、ここに住まないか?」
叶多の手が一瞬止まる。
が、カレーを口に入れる。
その様子を見て先生は諦めたように笑う。
「ごめんな、忘れてくれ」
二人して、カレーを食べ続ける。
ふとしたときにお互いに目が合い、先生が笑うと叶多は真似をするように笑う。
そして叶多はまたカレーを食べ始める。
叶多の自宅がある裏通りに続く道の前で、先生の車はゆっくり停車した。
先生の車内にあった時計はすでに12時を表示している。
「親御さんは大丈夫?」
先生は時計を見て心配そうに叶多に尋ねる。
「大丈夫」
「そう、ならいいんだけど、」
「あっそうだ」と先生はカバンから財布を取り出して、2万円を叶多に差し出す。
「これ。なにかに使って」
叶多はお金を受け取ると助手席のドアを開けて前に抱えていたカバンを片手にぶら下げて、車から降りる。
「ごちそうさまでした」
ドアに手をかけて叶多はお辞儀をする。
「ああ。また一緒にご飯を食べよう」
先生は嬉しそうに言う。
「うん」
叶多はそっけなく返事を返すと、車のドアを締めて数歩下がる。
先生は車の中から笑顔で叶多に手を振り、正面を見、ハンドルを持つ。車は走り出し、少し道をまっすぐ進んでから、途中Uターンして反対車線を走り、叶多から見て徐々に小さくなり、そして見えなくなる。
車の姿が見えなくなってから、叶多は裏通りを歩いて行く。
叶多が自宅の前に立つと、父親と祖母は寝静まった後なのか、家の窓からは明かりが一つもなかった
叶多はカバンから鍵を取り出し、戸を開ける。
家の中は開けた玄関のドアから漏れる光でなんとか中のものが見える程度の明るさだった。
音を立てないよう静かに靴を脱いだ叶多はリビングに向かう。
誰もいない。
真っ暗で物音一つ聞こえないリビングを見つめ、叶多は自分の部屋に向かう。
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