【第四話】宴

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*  用意した料理はすでにほとんどなくなっている。鈴木さんも舞さんも俺の作った惣菜や悟先生からの差し入れを美味しいと言って食べてくれた。もちろん、俺と香織さんもそうだ。島の自然の恵みを改めて享受していた。  俺と鈴木さんは神戸ワインを飲み切って、買い置きの缶チューハイに移行している。ノンアルコールの女性陣もサングリアを飲み切り、香織さんが淹れたコーヒーを楽しんでいる。  瞬くんはあれからふた切れめのアジフライを食べたあと、まるで電池が切れたかのように眠ってしまった。聞けば、生まれて初めての遊園地で、ありえないほど興奮していたらしい。舞さんが荷物から取り出したブランケットをお腹にかけ、赤ん坊のように両手をバンザイの形にして眠っている姿が愛おしく、俺はスマホで一枚写真を撮った。 「あとでLINEのアルバムに上げてな」 「もちろんです」  目を細くして瞬くんを見つめる鈴木さんの表情は、本当に穏やかだ。 「ってか、鈴木さんも元気そうで何よりです」 「うん。俺は元気だよ」  鈴木さんは左胸に手をやってから返事をする。その仕草はいつも俺を切ない気持ちにさせる。  徐脈性不整脈。鈴木さんが抱える心疾患だ。外見上は健常者と変わらない鈴木さんだが、けっこう深刻な疾患を抱えている。  左胸に植え込んでいるペースメーカーがないと生きていけない鈴木さんとは、神戸にいた頃に通っていた総合病院で知り合った。やがて飲み友達になった俺たちだが、深刻な疾患を抱えながらも常に前向きでいる鈴木さんに、俺はどんどん惹かれた。当時まだ自分の身体を完全には受け入れることができず、ふさぎ込むことも多かった俺は、そんな鈴木さんに自己肯定感の欠片をもらっていたといっても過言ではない。 「ほんと、よかった。鈴木さんが元気で」 「真也だって元気そうじゃん。日に焼けてさ」  俺は着ている半そでのTシャツから露出している腕を見やる。この島に来ていっそう外へ写真を撮りに行く機会に恵まれた俺は、けっこう日焼けをしている。
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