75人が本棚に入れています
本棚に追加
「何か俺、やっと今の自分を認めてやれたような気がするんですよね」
ふっと鈴木さんは笑う。
「遅いよ、今更」
「えっ?」
「俺はずっと真也の写真のファンなのに」
そうだ。神戸の居酒屋で酒を酌み交わしていた時から、俺は鈴木さんに対してだけは事故前からカメラマンであることを打ち明けることができていた。そして鈴木さんとの会話を通じて、一度は諦めかけた写真の道を歩むことを決意した。
鈴木さんとのLINEトークのアルバム。そこは俺が撮った写真で埋め尽くされている。
「そうでした。鈴木さんは俺のファン第二号でした」
ちなみにファン第一号は香織さんだ。
「でもいいじゃん。ほら、気づいた時から始めても大丈夫って言うじゃん」
そんな格言なんてあったかなぁと考える。だが同時に、今の俺にとってしっくりくる言葉でもあった。
気づけてよかった。車椅子ユーザーの俺の目線は人よりも低いが、その分空は高い。そしてその分だけ、俺は広く世界を見渡せる。車椅子であることは決してハンデではなくて、俺の強みなんだって。
「はい。今はちょっとだけ、自分に自信が持てるようになりました」
「ちょっとだけ?」
鈴木さんが俺の瞳をのぞき込む。
「だって、俺、まだ写真館の客入りも少ないし……」
新たに冷蔵庫から出してきた祥子さんちのミニトマトをつまみに、鈴木さんは缶チューハイをあおった。
「これはこれで、さっきのぬか漬けと違って美味い」
祥子さんちのミニトマトは果物と間違うほど甘い。俺は自分を褒めてもらったように嬉しかった。
「でしょ。俺も好きなんですよ」
そう言って俺もひとつ口に含む。みずみずしい香りのあとに口いっぱいに広がる甘み。
「じつはさ……」
鈴木さんが少し声のトーンを落とした。そんな鈴木さんの様子に少しだけ不安になる。
「何かあったんですか?」
「俺さ、元気なのは元気だけど、やっぱり歳のせいか、不調を感じることも多くなってさ……」
突然の鈴木さんの告白に、俺は固まった。
最初のコメントを投稿しよう!