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鈴木さんに助けられるばかりだった俺は、彼にかけられる言葉はないかと思案する。
「鈴木さん」
「ん?」と顔を上げた鈴木さんの目元が少し濡れていたことは見なかったことにした。
「秋って何が釣れるのかまだ俺にもわからないけど、また魚料理食べに来てくださいよ。俺、クール便でうまく送る自信ないし。ほら、この島、神戸と何か空気の流れが違うから、きっと鈴木さんもリフレッシュできますよ」
そう言うと、鈴木さんはにやりと笑ってくれた。それがとても嬉しかった。
「そうだな。じゃあ、いっそのこと毎月来るか? なぁ、舞」
「それはかなり魅力的だけど、さすがに真也さんも大変じゃないかと……」
「そうよ。真也くん、今自分ですごくハードルを上げたってわからない?」
「あっ……」
確かに。さっきの俺の理論でいくと、季節が変わるごとに俺は魚を釣って調理して鈴木ファミリーをもてなさなければならない。それはそれで楽しいかもしれないが、よくよく考えると煩わしいことも正直で……。だが、それで鈴木さんが健康を維持してくれるなら……。
沈黙が横たわるこの短時間のうちに俺が出した答えは、「やってみる」だった。
「ちょっと大変そうだけど、俺、頑張りますよ」
だが、鈴木さんは即座に首を横に振る。
「いや、真也だけが大変なのは俺も心苦しいし……。でも俺はここが気に入ったから、気軽に来れる休憩所みたいな感覚でいいかなぁ」
「はい。ってかそうだったら俺も助かります」
俺は気恥しくなって後頭部に手をやりながら答え、缶チューハイをあおった。
「そうだね、健ちゃん。まだ島のレジャースポット制覇していないから、その都度寄らせてもらおうよ」
「うん。舞さん、ぜひ」
「そうよ、ここは気軽に立ち寄る場所なのよ」
ほっとしたと思う自分がいる。だがその反面、鈴木さんとはいつまでも対面する仲でいたいと強く願う自分がいた。時々LINEのメッセージでやり取りはしているが、やはり対面に勝るものはない。
「でもね、鈴木さん。いつもの痛みとは違う痛みが出たりしたら、すぐに受診してくださいね」
「はい」
すっかり晴れやかな顔に戻った鈴木さんは、香織さんの忠告を素直に聞いた。
と、その時。
「ちんちゃん……」
今ここで耳にするはずのないあどけない声が聞こえて、俺は声の主を見やる。ぐっすりと寝入っている瞬くんを眺めて、聞き違いかと思った。
だが。
「よく……できまちたー」
何という絶妙な寝言。思わず大人四人で顔を見合わせて笑ってしまった。
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