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「ツーショット……?」
「うん。浴衣姿の真也くんがかっこいいから。あたしは、あたしひとりの写真じゃなくて、真也くんとの写真が撮りたい」
俺はしばらく考える。そして自分の身体を見下ろした。
これまで、それこそ障害の有無にかかわらず、俺は自分自身を被写体とすることを考えもしなかった。
写真に写るのが嫌いな香織さんの緊張をいかにほぐして、その美しさを引き出すことしか考えていなかった自分を恥じた。俺だって被写体になることは前から嫌だった。この身体になる前から避けていた。だから香織さんの気持ちを理解していたはずなのに。
だが、もし香織さんの美しさを引き出すことができる瞬間が、俺と一緒に写真に写る瞬間だとしたら。
対面する被写体の撮影ではなく、撮影者である俺自身も被写体となる写真撮影。
当たり前だが、そんな経験は初めてだ。だが、その方法こそが香織さんの一番美しい表情を切り撮ることができると、俺は確信していた。
カメラのストラップを首にかけたまま、俺はハンドリムを回して方向転換をする。
「どうしたの?」
香織さんに背を向けるかっこうになったので、俺は振り返った。
「香織さんだけの写真を撮るのはやめた。俺も一緒に写る。今、三脚の準備をするから、ちょっとだけ待ってて」
「いいの?」
細かい心境の変化を説明するには時間がもったいない。俺は再び香織さんに背を向けて、機材を置いている棚に向かいつつ、声を張る。
「いいんだ。プロである俺がそう判断したんだ。きっといい写真が撮れる」
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