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「…リア、アリア!」
「…っ!ごめん、何?」
「それは此方の台詞だ、どうしたんだボーッとして。珍しいな」
「…ごめん、ちょっと昔を思い出してて」
唐突にリアムの声によって現実世界へ連れ戻されたアリアは、隣で車を運転するリアムへそう返答した。
「昔って言うと二年前のことか?」
「うん。私とリアムが出会った時のこと、思い出してた」
「…もう二年か。時の流れは早いな」
感慨深げにそう呟くリアムへ無言の肯定を返し、アリアは再び車外の景色を眺めながら物思う。どうして今日に限ってこんなことを思い出すのだろうか、と。そんなアリアの心情を察したのかリアムが口を開いた。
「…やっぱり、辛いか?」
アリアを気遣うようなリアムの問いに、アリアは何も答えずスカートの裾を握った。そんなアリアの膝の上には一通の手紙が置いてある。帝国王室御用達の高級紙を使って書かれたその手紙は現帝国女王アリシア二世からのものだった。
手紙の内容は単純な召集命令。詳しい用件は何も書かれていない、怪しさ極まるこの召集に応じざるを得なかった理由は主に二つある。一つ目は王室からの要求ならば断る余地が端から存在しないから。二つ目はこの手紙が偽造でも捏造でもない本物であると証明されているからだ。
当初この手紙が届いた時、真っ先に偽造を疑ったアリアはリアムに手紙を鑑定してもらった。だがリアムがどれだけ手紙を調べても偽造の証拠は全く上がらず、信じがたいことにこの手紙は本物ということになったのだ。
(会いたくないなぁ、あの人達には)
そう、そしてこれがアリアが召集に応じたくなかった最たる理由の一つである。アリアの生まれであるスカイラー家は代々帝国王室に仕えてきた名家であり、当然今アリア達が向かっている宮殿にもスカイラー家の人間が多数出入りしている。一度宮殿へ足を踏み入れれば彼等と顔を合わせることになるのは自明の理だ。
二年前に追放された自分がどんな目で見られるか、事の顛末を想像してアリアはため息を吐いた。だが。
「…大丈夫だアリア、俺がいる」
リアムのその一言でアリアの不安も恐怖も緊張も全てが吹き飛んだ。そして。
「…うん、もう怖くない」
そう答えたアリアの瞳は二年前の、全てに怯えていた少女のそれではない。リアムという絶対の自信の源を得たアリア・ミア・スカイラーの瞳だった。
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