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「着いたぞ、アリア」
自宅から車を走らせ約一時間のところに、その宮殿はあった。リアムは宮殿の門前に車を停めると宮殿を警護している守衛に、届いた手紙を見せる。守衛はアリアを一瞥すると怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに二人を通した。
「…」
アリアは他の人間とは明らかに違う、紫がかった長い髪を指先で弄りながら守衛の隣を通りすぎる。異能力者は生まれつき異色の髪と目の色をしていることが多いのだ。
「…気にしなくて良い」
と、無言で俯くアリアを心配したのかリアムがアリアと繋ぐ手の力を強めた。
「…気にしてないよ?でも、ありがと」
アリアは漸くリアムと目を合わせると笑って答える。だがリアムは知っていた。アリアのその返答が、ただの痩せ我慢に過ぎないことを。だから。
「気にしなくて良い。アリアは、アリアだ」
もう一度同じ言葉を繰り返し、先程よりも更に強くアリアの手を引いて歩く。そんなリアムの半歩後ろをついていくアリアの顔にはもう、取り繕ったような笑みはなかった。
「…此方の部屋で女王陛下がお待ちです」
此処まで先頭を歩いていた案内役と思われる男は二人にそう告げると静かに一礼して去っていった。リアムはその後ろ姿を見送ると扉を三回ノックする。
「どうぞ」
室内から聞こえた高く澄んだ声にリアムとアリアは固く手を繋いだまま扉を開けた。
「お待ちしておりました。アリア・ミア・スカイラーさんと…リアム・オーウェン・ワイアットさん、ですね?」
「あぁ、そうだ」
「っ!貴様、女王陛下に向かって…」
リアムのその一言で殺気立った護衛の一人が腰の鞘から剣を抜こうとする。だがリアムは焦ることなく、寧ろ挑発するような笑みで言った。
「だから何だ?一方的に呼びつけたのはそっちだろ?」
「…確かに呼び出したのは此方です。ですが、私はアリアさんのみをお呼びしたつもりなのですが?」
言われてリアムが室内を見渡すと女王アリシア二世の対面には一脚の椅子が用意されているだけだった。元よりリアムの分は用意していなかったのだろう。だが。
「…それは失礼。でも、手紙に第三者の同席を禁じる類の文言はなかったはずだ」
「…」
アリシアは、反論できない。それを見て取ったリアムは更に畳み掛けた。
「最初からアリアだけを呼びたかったなら、言葉選びには気を付けないとな?」
「…分かりました。今、椅子をもう一脚用意します」
アリシアはそう言うと先程剣を抜きかけた護衛に椅子を用意させる。アリアとリアムは用意された椅子に座るとやはり手を繋いだまま本題を切り出した。
「それで?今日はアリアに何の用だ?」
「…まずは、これを見てください」
言って、アリシアは一通の手紙を二人に向かって差し出した。
「…っ」
「これは…」
そして、二人はその手紙の内容に驚愕することになった。
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