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エスト村の記憶
商業ギルドとの商談は、結局まとまり切らずに持ち越しになった。というのも、同行していた悪魔たちが自由過ぎて商談にならなかったからだ。とはいっても、物品が物品だけに、ギルドとしても価格が決められなかったので、どのみち持ち越しになっていただろう。
食事の後、リーフィがハナを連れてリリィに会いに来た。当然ながら、フワルも同行している。
「昼はこいつのせいですまなかった、リリィ」
リーフィがリリィに謝罪する。
「リーフィ、混乱はしたが別に気にしてはないよ。頭を上げてくれ」
リリィは、リーフィが頭を下げてきた事の方に戸惑った様子だ。
「それにしても、こののんびりした悪魔が村の仇かと思うと、どこか信じられない」
リリィはハナを見ながら、率直に言う。
「リリィちゃん、間違いないよ。私だって覚えあるんだから。反魂魔法を使えるくらいにはとんでもない悪魔よ」
ハナの横に居る、ハナと大して容姿の違わないフワルが力説する。
「私だって許せないと言えば許せないもの。でも、こうやってリリィちゃんと再会できたのも、先生のおかげだし……。複雑……かな?」
フワルは後ろ手になって、困った顔をしている。
「はぁ、フワルとこうして話せる事は嬉しい限りだ。だが、ハナといったな。これと村を滅ぼされた恨みとは別だからな」
リリィがため息から一転、鋭い目つきでハナを見る。
「はいはい〜、分かっているわ〜。本来〜悪魔なんて〜人から恨まれて〜なんぼなのよ〜」
相変わらず、気の抜けたような声で話すハナ。本当に掴みどころが無い。
「いい加減にせんか、花。要らぬ対立を煽るのなら、ワシが許さんぞ」
フォスが睨みを利かせれば、ハナは「はい〜……」と小さくなって黙り込んだ。
「しかし、不思議なもんだな。これだけ多くの悪魔が、一つの場所に居るっていうのも」
「そうですね。あた、お兄ちゃんから恐ろしい連中だという風に聞いてましたけど、アサーナちゃんたちに出会ってイメージ崩れましたね」
リリィが言えば、セミルも続けて感想を漏らす。
「まったく、セミルは兄と違ってしっかりしてるよな」
リリィがそう評する。
「お兄ちゃんがだらしなさすぎるだけです」
それをセミルは一刀両断にしてみせた。さすがしっかり者である。
「で、商談はまた明日詰めるとして、リリィさんたちの故郷のエスト村ってどうだったの? フォス様から多少は聞いてるけど、あたしたちが生まれた頃にはハナさんに滅ぼされたって聞いてるけど」
アサーナが尋ねれば、ハナはうっと声を詰まらせていた。一応、負い目を感じてはいるらしい。
「まぁ、森の悪魔に好かれるくらいには、自然が豊かな土地だったよ。人の手が入っていながら、割と自然の状態に近い、言ってしまえば田舎の村だったな」
「うん。とはいっても、私たちはまだ小さかったから、ほとんど家でのんびりしているか、近所の友だちと走り回っているかのどちらかだったわね」
「フワルはおとなしそうな性格してるけど、結構わがままで振り回されたな。その度に私が怒ってケンカしたもんだ」
二人の話には驚かされた。一時期フワルを名乗っていたハナも、
「最初は〜私も〜驚いたものよ〜。性格も〜影響されそうに〜なったもの〜」
名乗りで元の人間に影響されかかったらしい。だが、ハナの言う話はアサーナとミリナの二人には、よく分かる話だった。
「でも〜、自分でも〜その時の感情で〜バカな事をしたって〜反省してるわ〜」
「それはどういう事だ?」
ハナの言う事に、リリィが睨みつける。
「だって〜、私は〜花の悪魔〜。自然が〜大好きな〜悪魔よ〜? だから〜、自然の多い〜エスト村を〜滅ぼしたのは〜、自分としても〜失敗〜」
間伸びした言葉のせいで、反省しているように思えないが、表情は確かに反省と後悔をしている顔だった。
「あの村の〜人たちは〜、本当に〜自然が〜好きだった〜。森の悪魔様が〜気に入るのも〜よく分かる〜」
そう言って、ハナはフワルを抱きしめて、リリィを見る。
「だから〜、今回の〜交渉が〜終わったら〜、エスト村に〜向かうの〜」
あまりに真剣な表情を向けるハナに、
「分かった。そこまで後悔してるのなら、私も仇を討つのは勘弁してやるし、村に行くのに付き合ってやる。だから、ちゃんと行動で示してくれ」
リリィは戸惑いながら申し出を受け入れた。
そして、その日はエスト村の話で盛り上がるのだった。
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