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教会と魔境のこれから
北の教会周りの環境もだいぶ改善をしてきた。南の魔境や教会から取り入れた技術や知識を使って、とにかく意識改革が行われたのである。魔物や魔石の利用方法も冒険者を中心としてかなり広まりつつある。庶民レベルにまで浸透するにはそう時間は掛からないだろう。
ポーラはウルサを通じて各地からの報告を聞いて、少し嬉しそうにしている。
「ずいぶんとご機嫌でございますね」
「ええ。南からの受け売りとはいえ、この北の教会の地域を豊かにできるかと思うと、どことなく嬉しいのです」
ポーラは聖女らしからぬと言われそうな、両肘を机についた状態で話している。こういう態度は年相応の幼さが出ていると言えるだろう。
「そうでしょうな。あたしもまさか、こうやって聖女の側仕えをするだなんて思ってもみませんでしたからね」
ウルサはどこか皮肉交じりに言うものの、まんざらでもないような表情をしている。
「ふふっ、そうですね。わざわざ悪い人を懲らしめて回っているとは思いませんでしたが」
「うえっ、知られてるのかよ!」
ポーラのくすりと笑いながら言ってきた言葉に、ウルサは久々に地が思いっきり出てしまった。
「こほん、ご存じでしたのですね」
そして、気を取り直して言い直した。
「それはもちろんです。最終的には全部私のところに報告が来ますからね」
ポーラがこう答えれば、ウルサは納得したようだった。
「あたしは悪魔でございます。人に恨まれるのはあたしの役目です。教会がそれをする必要はないですし、ポーラ様の意思に反しますからね。必要な事なのでございます」
ウルサは胸を張って言い切った。
「そうですか……。頼もしい限りですが、やり過ぎないで下さいね。私は別に恐怖政治がしたいわけではありませんからね。民の平和が最優先なのです」
「心得ております」
ポーラが改めて口にすると、ウルサはそれに従う。そして、
「ポーラ様の御心を伝えるために、あたしはまた巡回に行って参ります」
「ええ、頼みましたよ」
ウルサは外回りに行く旨を伝えると、部屋を出ていった。
一人部屋に残ったポーラは、椅子に深くもたれ掛かってため息を吐いた。南の教会の地域で出くわした事に影響されて、北の教会の地域で一人奮闘を始めたのだが、これでよかったのか、時々悩んでしまうのである。
「お悩みですかな、ポーラ様」
「騎士長、どうされたのですか」
顔を上げたポーラの前には、教会騎士のトップが立っていた。
「ノックもなしに入ってくるなんて、何があったのです?」
「ええ、ありましたよ」
騎士長は目をつぶる。
「聖女が悪魔に魅入られるとはね!」
勢いよく目を見開くと、騎士長はポーラに対して斬りかかってきた。だが、その剣はポーラには届かなかった。
「まったく、どっちが魅入られているんですかね」
「ウルサ!」
その攻撃を止めたのは、ポーラの補佐を務める悪魔だった。
「心の隙を低俗な悪魔に付け入れられるなんて、騎士長としてどうなんですかね!」
ウルサが跳ねのけると、
「ポーラ様、浄化を!」
「は、はいっ!」
ポーラに呼び掛けて、すぐに浄化魔法を発動させた。
「グアアァ……」
すると、騎士長の体から黒いもやが抜けていき、そのまま消滅したのだった。
「悪魔ってのはこういう奴なんだ。本当に危なっかしいったらありゃしない」
「は、はい。助かりました、ウルサ」
ポーラはウルサに頭を下げていた。すると、ウルサはそれを咎める。
「聖女様なんだから、頭は簡単に下げない下さい。それじゃ舐められますよ」
こう言われてポーラは口をつむぐ。
「ポーラ様はもっと、聖女としての自信をつけて下さい。でなきゃこういう事はまた起こりますよ」
「うう、頑張ります」
ポーラとウルサの関係は良好のようである。
これからもこの二人の活躍で北の教会の地域は発展を見せていた。南の教会の地域ほどではないが、利害の関係から敵対しない悪魔もちらほら出てきていて、名付けによって平和に暮らしている。
こうして、一部悪魔と教会の間で関係が改善はしているものの、根本的には相容れない存在である。これからも争いが完全になくなる事はないだろう。
ましてや、教会の能力は辺境悪魔にすら劣る。本気で悪魔に牙を剥かれたらひとたまりもないだろう。教会として役目は、瘴気の地域をこれ以上広げない事などの均衡政策となるわけだった。結局、悪魔の前に人間は弱すぎるのである。
アサーナとミリナが開いた宿屋から波及した考えは、着実に世界の考え方を塗り替えていっているようである。だが、これから世界がどのようになっていくのかは、この時点では誰にも分からない事なのだった。
――第四章、完
―――
これにて「魔境の宿屋さん」は一時完結です。これまでお付き合いありがとうございました。
ソラやハナといったキャラをメインに据えた話も書いてはみたいので、「完結」への移行は行いません。
それでは他作品などもよろしくお願い致します。
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