商談そっちのけ

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商談そっちのけ

「へぇ、風魔法を使って中身を粉砕するのね。なかなかな発想じゃないの」  アサーナはとても興味を示している。 「世話になった食堂で、物がよく噛めない人が居るからどうにかならないかって相談されてね。だったら砕いてしまえばいいと思って作ったんだ」  ソラは説明する。 「風を調節して、外に噴きこぼれないようにもしてるし、考えられてるわね。これ、固形の状態で残す事もできる?」 「そこは魔石への魔力の込め方次第かな。不可能じゃない」  アサーナからの質問にも、スムーズに答えるソラ。それを聞いたアサーナは、とりあえず中身をコップに移す。すると、液体が入っていたのに、中には一切残っていない。これも風魔法によるコーティングなのだろう。 「細かい事できるようになったじゃないの。さすが、あたしとミリナが名付けた悪魔ね」  アサーナは不敵に笑う。  そして、アサーナは厨房に居るミリナから人参を渡してもらうと、ソラの持ってきた撹拌粉砕器(ミキサー)に入れて、人参を細かくしようと試してみる。  サイコロ状に形が残るようにイメージしながら、アサーナは魔石に触れる。すると、ミキサーは起動してニンジンを刻み始めた。  しばらくすると、ミキサーの中には、しっかりとサイコロ状になった人参の山ができあがっていたのだ。 「へぇ、これは想像以上の出来だわ。やるじゃない、ソラ」  アサーナに褒められて、ソラは自慢げに腕組みをする。 「ただ、容器の耐久性ととかには改良の余地はありそうね。桶の応用だから隙間があるし、これだけの勢いで風を回すのなら、思ったより早く壊れる可能性があるわ。土魔法の使える人にコーティングをしてもらうといいわね」  褒めるだけじゃなくて、改善点を指摘するアサーナ。アサーナも大概な技術屋である。  と、ここで都の商業ギルドの面々からいろいろと言葉が聞こえてくる。聞けば、定期的に出せるかとか、量があるなら値崩れを起こすぞとか大体そんな感じの話だ。要は安定供給を図りたいが、冒険者との兼ね合いがあるので難しいといった話のようだ。  こういう事は、元々冒険者であるリリィや現役の冒険者であるリーフィの方が詳しいので、アサーナはその辺の交渉を任せる。  だが、なかなかまとまらない。そこへ口を出したのが、意外にもハナだった。 「だったら〜、ここから提供されるのは〜王族や貴族へ〜、冒険者から〜提供されるのは〜一般人向け〜でどう〜?」  これには、商業ギルドの職員や商人たちも驚いていた。質によって取引相手を変える。どうやら盲点だったようだ。しかも、それを言ってきたのが悪魔。商隊全体に、何とも言えない空気が漂う。 「それは名案ね。上流階級だと見栄えは気にするから、あたしたちの用意する傷の無い物は重宝するだろうし、一般人なら使えればいいので、多少の傷は気にしないものね」  アサーナもハナの意見に賛成のようだ。  悪魔たちの言葉とはいえ、方策としては問題が無いようなので、商業ギルドの面々はハナの意見を採用する事となった。 「なら決まりね〜。というわけで〜、ご褒美に〜ムーンウルフの毛を〜買い占めるわ〜」 「結局、それが目的かい!」  諦めていなかったハナに、フォスがツッコミを入れた。 「当たり前なの〜。一流を〜追い求めるなら〜、妥協は〜不要なの〜」 「やれやれ、こやつ、ここまでわがままな奴じゃったとは……。じゃが、十年前は、ちと言い過ぎたのかも知れんのう。あんな事しでかすくらいじゃからな……」  ハナが嬉しそうに微笑む姿を見て、フォスは昔を後悔しているようだった。 「そういえば〜、リリィだっけ〜?」 「なんだよ」  フォスの姿を尻目に、ハナはリリィに話し掛ける。 「この商談が〜終わった後だけど〜、フワルと一緒に〜、エスト村に〜行かない〜?」  ハナの申し出に、リリィはひどく驚いた。まさか村を滅ぼした悪魔から、そんな提案が出るとは思ってなかったからだ。 「私も〜反省してるから〜、弔いくらい〜しておきたいの〜」  ハナにこう言われて、リリィはアサーナの方を見る。アサーナは視線に気が付いて、 「いいわよ、いつも頑張ってくれてるし。花の悪魔とも一度話をつけておくといいわ」  すぐさま了承の返事をした。 「すまない、恩に着る」  リリィはアサーナに頭を下げる。 「ふふ〜、楽しみね〜。私も〜フワルの記憶を〜持ってるから〜、リリィの事も〜少し知ってるの〜」 「なっ?!」  話がついたところで、ハナがまた爆弾発言を投下する。 「うふふ〜。そろそろ〜話に戻らないと〜怒られる〜。詳しい事は〜また後で〜」  ハナはごまかすように話を打ち切った。  それにしても、このハナという悪魔。どうにも掴み所が無いように感じたので、アサーナは少し警戒するのだった。
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