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 オトコのところには戻れないからしばらく居させてほしい、と彼女が言うので、翌日はふたりで買い物に出た。  本当は彼女と1日中思う存分セックスしてみたかったが、時間はたっぷりあるし、あまりにしつこくヤりたがってキゲンを損ねても面倒だからな。  関係を元通りに復活させるには、ある程度は言うこと聞いてやる必要があるだろう。 「ねーねー。再同居記念に、ペンダント買ってよ」 「んな高いモン買えるか、バーカ」 「あはははは! ジョーク、ジョーク。お金ないもんね、ノリトモ」 「…… うーん。そこのセール品でガマンしてくれ」 「やったぁ、ありがとう!」  口調も元に戻ってるな。  それに前なら 『セール品なんて』 とか言って怒っていたのに…… 今は、やたら素直じゃん。かわいいぞ。いい感じだ。  夕食は少し無理をして豪華に、鍋にした。ひとりだと絶対に食べないやつだ。  これで彼女も、オレを見直してくれるといいが…… 「えー、セックス? あたしたち、付き合ってるワケじゃないのよ? それに、生理始まっちゃったの。ごめんね」  クソッ…… まぁいい。  まだ、時間はあるはずだからな。  それに、明日も朝4時半に起きて仕事、と考えたら、今夜は早く寝たほうがいいか……。  今度の休みには、絶対に彼女とヤりまくってやる。  そう決意し、オレは彼女が夕食を後片付けする音を聞きながら、眠った。  翌朝。まだ寝てる彼女を家に残し、暗い中を出勤する。 「田中くん」  駅のシャッターを開けて掃除をしていると、駅長に呼ばれた…… 厳しい顔だな。どうしたんだ? 「キミ、どうしてこんな動画をupしたんだね」 「えっ…… なんですか、これは」 「それは私が聞きたい」  駅長が見せてくれたスマートフォンの画面には、オレの顔が大映しされていた。  画面端には、 『人情なんて無かった! 鉄道員のホンネ』 とのタイトル。 『…… ほんとによー。規則は規則なんだよ。わかってねーよな。  どんだけ言っても、毎晩毎晩。しつけーんだよ。アタマおかしいわ ……』  延々と流れるのは、一昨日の夜、彼女にぶちまけたあのクソビッチJKの話だ。 「えええ? どうして……」 「だから、それは私が聞きたい」  こうしている間にも、再生回数がドンドン伸び、次々とコメントが書き込まれていく。 『アタマおかしいのはそっちだろww』 『C電鉄の闇』 『客に損させる規則をウエメセで振りかざすって、どんだけwwww』 『この女の子、ちゃんと帰宅できたのでしょうか…… 気になります……』  なんだよ。  オレたちの立場なんて全然わかってない、クレーマー予備群ばっかりじゃないか。 「クソッ…… アンチだらけじゃねーか」 「当然だろう。なんてことをしてくれたんだね、キミ」  駅長の目線が痛い。 「オレじゃねーっすよ…… そうだ、彼女。彼女がやったんすよ!」  あいつ…… 帰ったら、タダじゃ済まさねーからな! 「…… こうなればもう、誰がやろうが関係ないよ。どうやらSNSでも拡散されてるようだ。上に知られるのは、時間の問題だな。相応の処分を、覚悟してくれ」  クソッ、クソッ、クソッ……!  なんで、こんなことになったんだ……!  そもそもオレは動画なんてやってない。削除しようとしたが、ユーザーページに入るためのパスワードがわからなかった。アカウントはオレの携帯(スマホ)なのに。クソッ。  その日は、動画のことばかり気になって、業務に身が入らなかった。おかげでいくつもミスしてしまった。  いつも誰かに見られているような気がするし、実際にスマートフォンを向けられていたこともあった。  だが、文句をつけようにも、そいつらはすぐに人波に紛れこんで電車に乗って行ってしまう……。  隙間時間にエゴサをかけてみて、頭を抱えたくなった。  『#オニ鉄道員』 でスレッドが立ち、『田中はC電 L駅の駅員』 『住まいは L駅から徒歩15分ほどの……』 といったコメントが、すでに何百件と拡散されていた。  完璧に身バレしている…… どうしてこんなことになった。オレがいったい、なにをしたっていうんだ。  ただ、規則を守ってマジメに働いてただけじゃねーか……。  勤務時間が終わるころに上の出した結論は、取りあえず1ヵ月の謹慎処分。  あれほど欲しかった連続休暇がいきなりどーんと降りかかってきたワケだが、もちろん全然、嬉しくない。 ―― 彼女も、上司も、面白がってオレをバッシングする連中も、バカな乗客どもも。みんな、まとめてシね。   ―― 明日からどうなるんだろうオレ。ゴミ投げられたり、マンションに落書きされたりすんのかな…… ―― 彼女に、理由を…… いや先に、動画サイトのパスワードを聞かなきゃな。教えてくれるかな…… 教えるだろ、普通。あいつのせいで大変なことになったんだから。  怒りと恐怖と規則がごちゃ混ぜになった感情のままの、帰り道。  一昨日よりももっと背を丸めてトボトボと歩いていると、目の前に2人組の人影が立ち塞がった。 「田中ノリトモさんですね。我々はこういう者です」 「…… 警察? 何の用ですか?」
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