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5.
「実は…… 『男女ふたりが、死体のようなものを引きずって田中さんの家に入るのを見た』 との通報がありまして……」
警察からの説明に、全身に冷たい水を浴びせられたような気分になった。
―― もう、誰からともわからないイヤがらせが、始まっているのか……
「そんなの、タダのイヤがらせっすよ!」
「念のために、部屋に入って確かめさせてもらってもいいですか」
ここで断ると、心証が悪くなりそうだ…… どうせ何もないんだし、サックリ見せてとっとと帰ってもらおう。
「いいっすよ」
―― そのあとすぐに、オレはこの判断を死ぬほど後悔することになる。
部屋に彼女の姿はすでになく、かわりに、クローゼットの中に、あったからだ…… 死体が。
その死体の顔は、あのビッチJKにそっくりだった。というか、どう見ても本人だった。
※※※※
駅の防犯カメラに、オレと会話するビッチJKの姿が映っていたため、オレは一時、警察から事件への関与を疑われるハメになった。
だが、最終的に捕まったのは彼女と彼女の新しいオトコだった。
なんでも彼らは、駅員 (つまりオレ) に断られて電車に乗れなかったビッチJKが、駅から交番に向う道を歩いていたのに、たまたま車でぶつかってしまったらしい。
そして恐怖とパニックでそのまま現場から逃げ去り、あとで戻ってみたら、ビッチJKは死んでいた。
彼女たちは、ひき逃げをやらかしたのである。
…… それは、オレとビッチJKが初めて会った晩のことだったそうだ。
その後、彼女は気づいたらいつの間にか元カレ (つまりオレ) の部屋にいた。そこで、オレのクローゼットに死体を隠すことを思いついたんだそうだ。
けれども、オレの話を録音して動画で拡散したことについては 『全く記憶がない』 の一点張りだという。
彼女じゃなければ、誰がやった、っていうんだ……。
一連の騒動で、オレは結局、会社をクビになった。
その上、精神に変調をきたしてしまい、今は定職にもつけずに病院通いの毎日だ。もともと多くなかった貯金は、もうじき底をつく。
お金が全くなくなったら、オレはどうすればいいんだろう。
「…… 規則を守っただけなのに、なんでだ …… 規則を守っただけなのに…… 」
ブツブツと呟くオレの耳元には、いつも、返事の代わりに、どこかで聞いた笑い声が蘇えってくる。
「ふふっ…… ふふふふっ…… 」
(終)
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