「ココロノホシ」

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 又、『心星』を手酌で注いだ。 満たした自分の杯へと目を落とし、後藤が言う。 「そこから、『何事にも動じない、軸がぶれない酒』を目指して先代だった俺の親父が名付けた」 「お父様が」 「『お父様』なんて呼ばれる様なお上品な親父じゃなかったけどな」  絵に描いた様な『頑固親父』だった父親を思い出し、後藤は懐かしくも苦笑いを浮かべる。  融通が利かない性格はともかく、鬼瓦の様に厳つい外見は次男の自分はまるっきり似なかった。 その代わりか、長男で兄の(たかし)(しか)と受け継いだと思う。  辛口のしっかりした酒で喉を湿らせて、その由来を後藤は語り出した。 「『しんせい』は『新星』、新しい星にもつながるから、『常に新しくあれ』という意味もあるらしい。――全く、どれだけ詰め込んでいるんだか」 口では言葉では呆れた風情だったが、持ち上げた一升瓶を見つめる視線は限りなく熱い。 何本もの細かいシワが寄り、切れ長の目のきわを飾り立てていた。  エドは鋭くも優しい後藤の目元を見つめたまま、話し始める。 「北極星は英語ではポラリスと言いますが、航海の目印だったことからステラ・マリス、『海の星』とかナビガトリア、『航海を導く星』という呼ばれ方もされます」 「詳しいな」 「有名な星ですから」
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