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テーブルを挟んでいなければ自分に抱きつかんばかりのエドの激情が、伝わってくる。
それが確かに分かる。
杯を掲げる。
完敗を認めた『乾杯』のつもりだった。
もしも――、あくまでももしもの話だが、エドが本当に望むのならばどんな種類の『固めの杯』を交わしてやってもいいと、後藤は思う。
一息に飲み干した酒は辛口だったのにもかかわらず、甘露の如く甘く、――しかも何時まででも喉奥に残りそうなほどに濃かった。
まるで頃合いを見計らったかの様に店主が他の料理も運んでくる。
一つは角切りにしたマグロの漬けとアボカドへと、すりおろした山芋と納豆とをかけた小鉢だった。
ご丁寧にも、輪切りのオクラまでもが乗せられている。
後藤は先代から継いだばかりの四十路の店主に「今夜は納豆を主菜にしてほしい」と頼んだが、『ネバネバ』の指定まではしていない。
思わず歓声を上げたエドがこれから見せるだろう超絶的な箸遣いが、目に浮かぶようだった。
揚げた角切りの餅に大根おろしと納豆とをからめた、その名も納豆からみ餅を食べながらとくと眺めることにしよう。
今夜最高のつまみだと、後藤は思った。
終
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