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「シリウス」
1.
後藤には予感があった。
変に気を回した結果、全く無駄になったとしても一向に構わない。
その時は自分の胸の内に仕舞っておけばいいだけの話だ。
「亀の甲より年の劫」という言葉通り、伊達に五十年も生きているわけではない。
「全然気が付かなかった」とかかまととぶってみても、いい年をして白じらしいだけだと思う。
行きつけの居酒屋で一度お開きにした後、飲み直すために河岸を変えた。
母屋の離れに在る自室に入った途端いきなり今夜の主賓だったエドに抱きすくめられるとは、さすがの後藤も予想だにしていなかった。
「お、おいっっ⁉」
右手は持っていた四合瓶、純米吟醸『雨夜の星』に封じられていたので後藤は左手だけを上げる。
ほぼ真上に伸ばさないとエドの肩甲骨には届かなかった。
今のところ五十肩の兆しはないにしても、釣りそうになる。
「――酔っ払ったのか?」
エドに限ってそれは有り得ないと思いつつも、万が一の疑いを後藤は突き付けてみる。
エドの好物である納豆料理の数かずを肴に、結局二人して一升瓶を空けてしまっていた。
「はい」
その割にはエドははっきりと返事をしてくる。
低いがよく通る声だ。
後藤を抱きしめる両腕の力も強く、足元もしっかりとしている。
「大丈夫か?」
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