「シリウス」

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 後藤はエドの肩に半ば口を塞がれつつ、たずねるだけたずねてみた。 エドの答えはすぐに後藤の頭の上へと降り注いできた。 「大丈夫じゃないです」 「おい‼」  とっさに後藤は顔を上げていた。 常に迅速な行動が求められる仕込みの作業中にも、エドをこんな風に声高に怒鳴りつけたことはない。  エドは生来、頭がいいのだろう。 飲み込みが早く、――何よりも素直だった。 それが、さっきから言葉尻を捕らえると言おうか、いちいち混ぜっ返してくると言おうか、とにかく後藤に突っかかってくる。  仔犬の頃からしっかり躾けられてきただろう、――つまり育ちが良く一事が万事礼儀正しいエドにはあるまじき振る舞いだった。  自分を見下ろす目を見て、後藤はゾクリと背筋を震わせた。 頭の片隅に留まっていた酔いが一瞬の内に蒸発する。  エドの目の青の色が薄くなっている。 水色と言うよりは、ほとんど白に近い。  エドが突然、「目の色を変えた」からではない。 強過ぎる光のせいだと、後藤はすぐに気が付いた。 つい先ほどまでの、はにかんだような柔らかい光は今や青い瞳のどこにもない。 目つきや視線はけして険しくないので、怖くはなかった。
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