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手を握られた驚きは、エドが発した言葉にすっかりかき消されてしまった。
「後藤酒造での手伝いが終わったら一度顔を出すと、両親と約束しました」
「そうか」
後藤は大きくうなずく。
とうに成人を迎えたとしても、いくつになったとしても『子供は子供』だ。
エドの両親は、生国を離れ日本へと行った息子をさぞかし心配していることだろう。
親になったことがない後藤にも想像をするのは難くなかった。
両親が見るのを今日か明日かと待ちわびているだろうエドの顔は、表情は曇っていた。
「両親には何故、イギリスで就職しないのかとずっと言われ続けています」
「・・・・・・」
さもありなん。
エドはきっと、イギリスに居るエリクソン夫妻の『可愛い自慢の息子』に違いない。
自分たちの手元に、目の届く場所に置いておきたいと思うのは道理だった。
これも又、後藤の目にはありありと浮かぶ様だった。
しかし、当の本人のエドはまさに『親の心、子知らず』の言葉そのままだ。
「でも、私は日本で暮らしたいんです。――直さんと同じ国に居たい」
「・・・・・・」
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