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歪みがまるでない二つの円が真っすぐとエドを見返してくる。
文字通り、『蛇に睨まれた蛙』になった心持ちに陥った。
怖気つつもエドは見事一口、一息で飲み切った。
口の中に広がるのは、蛇とはまるで縁もゆかりもない優しく柔らかな味だ。
その甘い香りは長ながと残り、やがて鼻へと抜けていく。
咲いた花にも例えられる、いわゆる吟醸香だった。
杯から上げたエドの青い目と、エドを見守っていた後藤の黒い目とが合う。
口元だけではなく、年を経て若干色が薄くなってきた瞳も笑っていた。
「餞別やるよ」
「えっ?」
後藤はエドが卓上に置いた杯を取り上げ、手酌で注いだ。
杯を手に、後藤が続ける。
「近々郷里に帰るんだろう。何がいい」
「・・・・・・」
後藤は、エドが『餞別』が何を表わすのか知らないとは露ほど思っていないようだった。
ためらいも説明もなかった。
実際、エドは『別れ行く人に贈る金品』だという意味をちゃんと知っていた。
言葉に詰まっていたのは全く別の理由だ。
「おれがやれるものなら何でもくれてやる。何が欲しいか言ってみろ」
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