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まるっきり『酒の席での他愛のない世間話』といった体でたずねてくる後藤に、エドが告げた。
「直さん。――直さんが欲しいです」
エドの青い目に映し出される後藤の顔は変わらず薄く笑ったままだ。
特に驚いたり嫌がっている様にはエドには見え、思えなかった。
ほとんど幻を見ている心持ちだった。
「わかった」
短く言い終えた後藤が杯を傾ける。
伸ばされ晒された首の真ん中に在る形のいい喉仏が上下に動くのを、エドは見届けられなかった。
――後藤の顔が近付いてきた。
目の周りや口元には細かいしわがあったが、結局最後までしみは見つけ出すことが出来なかった。
後藤にキスをされた、口付けられたとエドが知ったのは白く滑らかな肌の顔が自分からすっかり離れた後だ。
ほんの一口分の『雨夜の星』を飲み下した喉が灼ける様に熱い。
先ほどさんざん酒を飲んだ時にはまるで感じなかった熱さだった。
思わず指先を口元へと持っていったエドがぽつりとつぶやく。
「甘いです」
「純米吟醸だからな」
実に面白そうに笑って、後藤は答える。
吟醸の方が大吟醸よりも味がしっかりとしていて、後藤個人としては好みだった。
香りもあり、そのバランスがいいと思う。
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