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後藤のあっけらかんとした屈託のなさとは真逆も真逆に、エドが口ごもる。
「そうではなくて・・・・・・直さんの唇が甘いです」
今度こそ後藤は驚いた様に目を見開き、瞬きを二度三度と繰り返した。
すぐさま又、笑う。
皮肉げに細められた目の端にしわが寄った。
「おれの老香のせいじゃないのか」
「そんなことないです‼」
日本酒が劣化した際に出る臭いを持ち出してくる後藤に、エドは反射的に本気で怒鳴りつけた。
後藤が以前に話した、「老香は酒の加齢臭だ」という冗談をすっかり真に受けていた。
自分の大声が信じられない様に呆然とするエドに対して、後藤本人は一向に気にした風でもなかった。
「老香と熟成香とは紙一重だからな。おまえが甘いと言うならまぁ、そうなんだろうよ」
『円熟』という言葉そのままにまったりとまろやかに笑う後藤の顔に、エドは怒鳴ったことなどすっかり忘れてただ見蕩れる。
後藤の笑顔が好きだった。
仕事中は厳しく険しい顔が、ひと段落ついたり休憩中は緩む。
それらよりも何よりエドが好きだったのが、仕事が終わり食事や飲み会で後藤が見せる表情だった。
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