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 後藤は二口目の『雨夜の星』を飲ませ終えると、エドを自室へと置いてどこかに行ってしまった。 「後は好きにやってろ」と言い残していた。 もう酒を飲む気になれなかったエドは借りてきた猫ならぬ大型犬状態で、後藤が戻るまでじいっと『待て』をしていた。  正座を崩さないまま首だけを回し、辺りをぐるりと見渡す。 後藤の部屋は自分が約四ヶ月間宛がわれていた部屋とそう変わらない様に、エドの目には映った。 家具類は背が低いタンスに座卓、テレビに小さな本棚。 総じて物が少なかった。  食事は基本的に母屋の居間兼食堂で摂るし、風呂は家風呂の他に町の温泉の総湯もある。 後藤独りが寝起きをするだけならば、これらで十分事足りるのだろう。  布団は、押入れの中に仕舞ってあるのだろうか――。  そう思ってエドが襖に描かれている松林の色褪せた緑へと目を留めたその時、部屋の出入口のドアが突然開いた。  後藤の自室なのだから、当然ノックなんかしやしない。 「⁉」  驚きつつも端座したまま振り返るエドに、後藤も又明らかに驚いていた。 「どうした。かしこまって。飲んでないのか」 「はい・・・・・・」
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