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 こんな状況で独り悠々と飲めるわけがないと、我知らず向けてくるエドの恨みがましい目に気が付いているのかいないのか。 後藤はその左隣に腰を下ろした。 「手酌じゃ寂しいか。やっぱり差しつ差されつ飲む方がいいのか」  後藤が四合瓶を傾けてくるが、エドは一向に杯を取ろうとはしない。 間近で、真っすぐ自分へと告げてくるエドの目に再び強い光が宿るのを後藤は見た。 「直さん、わざとですか」 「何がだ」  左目を殊更に細めるのは、(いぶか)しがる時の後藤の癖だ。 平時からけしてと褒められたものではない目付きがさらに悪く、剣吞になる。  そんな目で後藤に見返されてもエドは全く怯まなかった。 却って語気を強めて言った。 「私の気持ちを知っていて、わざと際どいことを言ってからかっているんですか!」 「際どいって――」  オウム返しにつぶやいてすぐに後藤は思い当たった。 確かに『手酌』や『差しつ差されつ』という言葉は性的な暗喩、仄めかしだと聞こえなくもない。 「単なるおまえの気にし過ぎだ」と、ピシャリとはね退けることは出来なかった。 エドを自分の部屋へと誘ったのは、他ならない後藤自身だ。
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