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 苦しいのは押さえつけられた後藤の呼吸だけではなかった。 胸の、――心の奥底、かつて自ら鎖した箇所が軋み痛み出しているのがはっきりと分かる。  実に情けないと思いながらも、後藤はエドへと白状した。 「酔って楽になりたかったのはおれの方だ」 「え・・・・・・?」  絶句したエドは後藤の頭を放した。 位置はそのままで、後藤は顔を視線を上げた。 「そうでないと、とてもじゃないがおまえの気持ちに応えられそうになかった」 「・・・・・・」  今夜のこの酒は、『雨夜の星』は一時(いっとき)楽になるための薬だと見做していた。 純米大吟醸の『雨夜の月』の次に高級品として扱われている酒に対して何て言い草だと、後藤は苦く笑う。  年が倍も下の、――しかも男から懸想をされる、想いを寄せられるなど、まさに「きわめて稀にしか見られないこと」だ。 そう考えていた。 さすがにそこまで正直にはエドに告げられない。  その代わりに後藤の口から飛び出してきたのは実に後ろ向きな独白、――弱音だった。 「全く、年を取ると臆病になっていけないな」 「直さんっっ‼」 「⁉」
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