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「ココロノホシ」
たった今、自分がなみなみと注いだばかりの酒が瞬く間に消えていくのを、後藤はただ黙って見届ける。
真白い陶磁器の縁から離した唇で、エドは言い放った。
「やっぱり、日本人は日本酒ですよね」
「・・・・・・おう」
エドが冗談などではなく本気で、本心から言っているのが分かる後藤は短く、そう応えるだけにとどめた。
後藤と初めて会った際にも開口一番、
「東京出身ではないのですが、エドと言います。どうぞよろしくお願い致します」
と、発音も正しい流暢な日本語で挨拶をしてきたものだ。
後藤が東京=江戸=エドだと連想するのに、二、三拍の間を必要とした。
それにしても、杯がいくら小振りだからといってほんの一口で飲み干すとは!
――エドのヤツ、ちゃんと酒を味わってるのか。
後藤の別の疑いは、自分を見る青空の様な瞳にすっかり晴らされてしまう。
ダメ押しの様にニッコリと微笑まれた。
とどめだった。
二十代も半ばを過ぎているというのに、まるっきり子供の様な笑顔だ。
後藤に子供がいたとしたら、ちょうどエドくらいの年の頃になるか。
今年、とうとう五十路に入った後藤が『若い時に結婚して出来た長男』といった具合だった。
ちょうど倍違う。
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