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自分は表面に溶き辛子をつけて納豆の袋焼きを食べながら、後藤はエドを眺めた。
お通しとして出された塩納豆、――納豆と塩麴と刻み昆布とを混ぜたものの納豆だけを一粒ずつ摘まむ箸先に、目が釘付けとなった。
いくら大粒だからといって、器用なのにもほどがある。
後藤は笑いをかみ殺しつつ、一升瓶をエドへと示した。
店側には料理だけではなく酒も又、常連客としてのわがままを通させてもらった。
一升瓶を二本持ち込み、その内一本を『持ち込み料』として半ば無理矢理受け取らせた。
後藤酒造の顔、――ワインで言うところのファーストラベルというべき純米大吟醸酒『雨夜の月』だ。
今、後藤がエドへと勧めているのは本醸造で、違う銘柄の『心星』だった。
「飲むか」
「頂きます」
ほんの二、三口分の白磁の器はエドには華奢過ぎる造りだと、改めて思う。
ごつく大きな両手で恭しく、押し頂くように杯を差し出してくるエドへと後藤は苦笑した。
「固めの杯じゃあるまいし」
「えっ?」
「あぁ、固めの杯というのは――」
酒を注ぎながらどう説明したものかと思いあぐねていた後藤よりも一瞬、速かった。
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