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 後藤の声音は、吐き捨てる様な荒々しい口調とは似ても似つかなかった。 かすれていて弱々しくすらあった。 そして何よりも、言葉の通りに甘やかだ。 ――まるで飲んだばかりの『雨夜の星』の味わいそのままだった。  後藤は手酌でなみなみと注いだ杯を再び干す。 すかさずエドへと口付け、口移しをした。  後藤から三度飲まされた『雨夜の星』はやはり甘くて濃いと、エドには感じられた。 もとより、華やかな香りとまろやかな口当たりとが身上の純米吟醸酒だ。 それ以上に、――まるで甘露そのものの様にエドは存分に味わう。 「美味しいです・・・・・・」 ウットリと感想を述べるエドの声自体がもう既に、甘露と同じくらいに蕩け切っている。  それを聞いたからだけではないのだろう。 後藤が応じる声も又、エドのと負けず劣らず熱い潤いをまとっていた。 「人肌で燗付けしたからな」  まるっきり下手だが、あえて冗談ごかして言う自分が後藤は信じられなかった。 全く他人のダジャレを聞く様な心持ちだった。 胸の内だけで密やかにつぶやく。  このおれが好んで冗談を口にするなんて、まさに「きわめて稀にしか見られないこと」だな――。  けして『雨夜の星』を飲んだからではないのは、後藤にも分かり切っていた。    
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