チャーリーと後ろの眼

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 それは宛先が“設楽”になっているということ。実は結婚して、苗字を変えたのは僕の方だったりする。胡桃の家が醤油の大手メーカーである設楽カンパニーであることに加え、本人がこの苗字を気に入っていて変えたくないと言ってきたので尊重することにしたのだ。周りからは婿養子になったのかと散々揶揄されたが(そもそも結婚してどっちの苗字にするのかは自由なのに、女が変えるのが当たり前という風潮になっているのもどうかと思う)、僕はこの苗字も気に入っている。大好きな胡桃の旦那さんになれたのだ、という実感が沸くからとでも言えばいいのか。  僕の旧性は、鈴木、という極めて平凡な苗字だった。何が言いたいのかといえば――この相手は、僕の苗字が設楽になっていることを知っていて送ってきているということである。 「設楽智明、で送ってきてるってことは。この送り主、僕が結婚した上、僕の方が苗字変えたって知ってるってことだよな」 「そうだね。まだ結婚して一年ちょっとなのに」 「そんでもってよく見たら……」  ぼくはじっと、表面に顔を近づける。 「さっきまで見落としてたけど、字、間違ってね?よく見たら“設楽知明”になってる……」  名前でとも、と読む字は多い。特に、智と知の文字はよく間違えられることでも有名だ。智、の字を説明する時は“知る、の下に日がつく方のとも、です”と話したりもする。恥ずかしいながら、僕も時々自分の名前なのに書き間違えたり打ち間違えたりすることがあるほどだ。 「そ、私もそれ気づいてた」  胡桃の表情は険しい。 「で、その情報からちょっと絞れることに気づいたんだよね、送り主」 「え、マジで!?」 「うん。……ほら、私達って例の感染症もあって結婚式やんなかったじゃん?だから結婚しましたーのお知らせを一部の人だけにハガキとかメールとかでお伝えしたんだよね。その連絡って、年賀状だけやり取りするような人には教えてたり教えてなかったりする。……で、本題。私達がこのマンションにひっこしてきたのも、智君がその苗字になったのも。去年の年賀状、が最初だったはずだよね?」 「う、うん」 「去年、年賀状ってすごく出す数絞ったんじゃなかった?」  そういえば、と僕は思い出す。後ろの棚からファイルを持ってきて、去年年賀状を出した人リストを引っ張って来たのだった。  最終的にこちらから出した年賀状は、二十五枚。ただし、その殆どが向こうから年賀状が来てしまって慌てて返送したものである。 「……あ」  そこで僕は、去年のドタバタを思い出した。枚数も少ないし、業者に頼むのも面倒で、去年は自分達で年賀状を作って出したのだったが。
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