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チャーリーと後ろの眼
『あけましておめでとうございます!』
それは、一見すると普通の年賀状のように見えた。2022、年賀の文字が躍っている。ただし、表には設楽智明様の文字のみ。住所はおろか、差出人の名前もない。
裏面にあるのは、今年の干支である虎のイラスト。あまり上手くはないし、デジタル画でもない。なんだか子供の落書きのような絵だった。
一番上のあけましておめでとうございます、というフキダシの下に大きく真っ赤な口を開けた虎が笑っている。その首の下には、今年もよろしくお願いします、の文字。一見すると、普通の年賀状のようにも見えるだろう。
あちこちおかしいことを除けば、だが。
「なんか、変な年賀状が来たんだけど」
「ん?」
元旦の、ある種恒例行事でもある。最近はこちらから出す年賀状の数を絞っているため、枚数は相当少なくなりつつあるが。それでも、僕も妻も仕事をしている関係上、ある程度その関係者から年賀状が来てしまうことは免れられない。来てしまったら返さないわけにもいかないので、きちんと振り分けすることが大切だ。
というわけで、今年も二人でテーブルに向かい合って座り、積み上げた年賀状の山を宛先ごとに振り分けていたわけなのだが。
僕、設楽智明宛てに来た年賀状に一枚、妙なものが混じっていた。
それが、先ほど説明した虎のイラストの年賀状である。
「なんか、住所もちゃんと書いてないし。何で届いたんだ、これ」
まだ結婚して一年目。僕も妻の胡桃もまだ二十六歳だ。仕事も忙しいし、子供はもう少し蓄えができてからにしようと相談して決めていた。彼女のバリバリのキャリアウーマンということもあって、そこは納得してくれている。頭脳明晰、運動神経抜群、おまけに美人。僕のような凡庸な男がよくぞゲットできたかと思うほどよくデキた妻は、受け取った年賀状を見て眉を顰めたのだった。
「……これ、ヤバくない?」
たっぷり数十秒観察した彼女は。僕が思っていたよりもずっと深刻な声で告げたのだった。
「住所書いてないのに、年賀状が届くわけないでしょ。ていうか、これよく見ると“2022年賀”の文字もなんか変。……多分、これちゃんとした年賀葉書じゃないよ」
「え、そうなの!?」
「うん、なんかインクの色も薄いし、掠れてるし。……そんな葉書を郵便局が届けてくれるわけない。ちゃんとした年賀はがきでもなく、切手もないってのはつまり、料金払ってないってことなんだから。住所もないしね。それでも届いたってことは、自分の手でポストに投函したってことでしょ」
「え、ええ?」
僕は困惑して言った。
「流石にそりゃないだろ。どうやってうちのポストに、一般人が葉書なんか入れられるんだよ」
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