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「いらっしゃいませ」
少し動揺しながらも、気を取り直し声を掛けた。
「いつものブレンドと……何か食事ありますか」
「ございます。こちら、どうぞ」
ランチタイムのメニュー表を手渡すと、彼は数秒考えた後、ハムタマゴのホットサンドを注文した。
「かしこまりました」
普段なら、カウンター席のお客様の注文も真衣ちゃんが取りに来てくれるけれど、この日は忙しいのかスルーしている。
真衣ちゃんは、例のイケメンが来店したことに気付いていないのだろうか。
少しそわそわしながらも、美味しいブレンドコーヒーを作ることに専念し、目の前に座る彼に差し出した。
「ホットサンドはもう少々お時間かかりますので、先にコーヒーをお召し上がり下さい」
彼はコーヒーに早速口をつけ、小さな声で呟いた。
「……やっぱ、うま」
「……」
小さい声だったけれど、ちゃんと聞こえてしまった。
うまいって、言ってくれた。
お客様が何気なく呟くこういう一言が、ものすごく嬉しかったりするのだ。
嬉しくなった私は、つい彼に話しかけてしまった。
「お昼にいらっしゃるの、珍しいですね」
「え?」
「いつも夜にご来店されますよね」
すると彼は、少しの沈黙の後、口を開いた。
「……まぁ、そうですね」
「……」
やってしまった。
見極めを間違えてしまった。
彼は恐らく、店員と会話をしたくないタイプのお客様だ。
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