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だからと言って、まさか名前で呼ばれるとは思わない。
「あの人、店長の名前知ってるんですね」
私の隣で作業していたバイトの黒木くんも、どうやら私と同様に驚いたようだ。
「名前は多分、名札付けてるからそれ見て知ったんだと思うけど……」
「あんなイケメンと親しくなるなんて、店長やるじゃないですか」
「別に親しいわけじゃないよ。ちゃんと話したことなんて、ほとんどないし」
もちろん、『いらっしゃいませ』や『ありがとうございました』くらいなら毎回話すけれど、その程度だ。
だから、単純に驚いたのだ。
「また来ますって言ってましたね」
「……そうだね」
黒木くんとそんな会話をしていると、一仕事終えて手が空いた真衣ちゃんがカウンターの方へ駆け寄ってきた。
「店長!あのイケメンの年齢、ちゃんと聞きました?」
「だから、年齢なんて聞けるわけないでしょ」
「だと思った。だから真衣、お会計のとき聞いたんです。26歳ですって」
平気でお客様のプライベートに踏み込む真衣ちゃんは、もうさすがとしか言いようがない。
「年齢なんて聞いて大丈夫?彼、嫌そうにしてなかった?」
「思いっきり嫌な顔されましたよ。は?って言われたし」
そういう反応をされるに決まっている。
普通に考えれば、当たり前のことだ。
「せっかくまた来るって言ってたのに、もう来てくれなくなったらどうするんですか」
黒木くんが真衣ちゃんにそう言うと、なぜか彼女は自信満々の表情を見せながら言葉を返した。
「大丈夫よ。彼は必ず、また来るから」
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