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扉を開けた瞬間、コーヒーのほろ苦い香りが辺りを包み込んだ。
「いらっしゃいませ。お好きな席どうぞ」
中は思っていたより広く、テーブル席の他には店の奥にカウンター席がいくつかあり、座り心地の良さそうなソファー席もある。
入口付近のテーブル席に座ろうかと思ったが、近くに数人の女性のグループがいたため、人がいない奥のカウンター席に座った。
「ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、ブレンドで」
「かしこまりました。お客様、うちのお店は初めてですよね?」
「え?」
何か聞かれるとは思わなかったため顔を上げると、二十代半ばくらいの女性の店員が人懐っこい笑顔を向けて言葉を続けた。
「うちの店長が淹れるコーヒー、激ウマですよ。多分、ここのコーヒー飲んだら他に浮気出来なくなっちゃうと思います」
「……そうですか」
「店長、ブレンドオーダー入りましたぁ」
店員の女性は、カウンターの中でこちらに背中を向けながらコーヒーカップを片付けている女性に声を掛けた。
すると、背中を向けていた女性が、ゆっくりと正面を向いた。
その瞬間、確かに目が合った。
次の瞬間、俺は彼女から目を離せなくなっていた。
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