プロローグ

3/6
前へ
/450ページ
次へ
「ブレンドですね。かしこまりました」 店長と呼ばれるその女性は、俺と目が合うと一瞬ふわりと優しく微笑んだ。 そして、ネルドリップで丁寧にコーヒーを淹れていく。 コーヒーを淹れる手が、綺麗だと思った。 一瞬見せた笑顔が、綺麗だと思った。 その落ち着きのある声が、綺麗だと思った。 他人の動作に目を奪われたことなど、初めての経験だった。 「お待たせ致しました。ブレンドです」 彼女が淹れたコーヒーが、目の前に差し出された。 俺はなぜか若干の緊張を感じながら、そのコーヒーに手を伸ばし口に含んだ。 「……美味しい」 「ですよね?店長が淹れるコーヒーは、うちの看板メニューですから!ね、店長」 俺のオーダーを受けた女性店員がどこからか現れ、しきりにカウンター内にいる店長の女性に話しかける。 女性は少し照れくさそうに笑いながら、俺に声を掛けた。 「ごゆっくりどうぞ」 そしてまた、別の客のコーヒーを淹れ始める。 その姿は、いつまでも見ていられるくらい、美しかった。
/450ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5925人が本棚に入れています
本棚に追加