プロローグ

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コーヒーは酸味より苦味が強い方が好みだが、ここのコーヒーは酸味が控えめで俺好みの味だった。 店員がわざわざ「浮気出来なくなる味」だと言うのも理解出来る。 それぐらい、他では飲んだことのない深みのある味がした。 しばらく彼女がコーヒーを淹れる動作を見つめていると、コーヒーカップの横に置いていたスマホが震え、友人からメッセージが届いた。 『今仕事終わった!すぐそっち向かうから』 気付けば一時間が経過しようとしていた。 俺は僅かにカップの底に残っていたコーヒーを飲み干し、席を立った。 「ごちそうさまでした」 「ありがとうございました。またお待ちしております」 JAZZが流れる落ち着いたカフェに相応しい落ち着いた接客。 もっと続けばいいと思うくらい、充実した一時間だったと感じた。 俺はカウンター内で仕事中の彼女に一礼し、入口付近のレジへ向かった。 「ブレンド450円になります。またいつでもコーヒー飲みにいらして下さいね!」 どうやら会計はオーダーを受けた女性が担当しているらしい。 彼女と比べると落ち着きはないけれど、とにかく愛想が良いため悪い気はしない。 「ここ、定休日はあるんですか」 「毎週水曜日は焙煎日なのでお休みなんです。これ、うちのショップカードなんで良かったらどうぞ」 「どうも」 店から出て真冬の外の空気を吸うと、寒さが際立って現実に一気に戻された気がしてしまう。
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