一度失敗した女

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けれど中には、自分の話を聞いてほしいタイプのお客様もいる。 もちろん、プライベートに触れてほしくないお客様もいる。 その見極めは、重要だ。 だから私は基本的に、自分からお客様に積極的に話しかけるようなことはしない。 逆に真衣ちゃんは、自分からぐいぐい話しかけるタイプのため、お客様ともいつの間にか親しくなっていることが多い。 そういう社交的な部分は、密かに羨ましかったりする。 「気になるなら、真衣ちゃんが自分で聞けばいいじゃない」 「真衣が聞いてもいいんですけど、多分あの人、店長が聞いた方が喜ぶんじゃないかなぁ」 「どうして?」 「うーん、何となく。女の勘ってやつですかね」 「女の勘、かぁ……」 そういうフレーズを聞くと、一瞬で頭の中が過去の記憶で埋め尽くされていく。 女の勘というものは、大体当たる。 それは過去の経験から学んだことだ。 胸の奥が、ざわつき出す。 もう、二年も前のことなど、思い出したくもないのに。 「店長?どうしました?」 「え?あ……ううん、何でもない。そろそろ時間だね。お店開けようか」 今日もまた、一日が始まる。 私はちゃんと、新たな道を歩み始めている。 だから、大丈夫だ。
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