離婚はしない! はあ?

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離婚はしない! はあ?

「離婚したいの」  はっきりとそう告げたはずだった。そういわれれば陽介も二つ返事で了解すると思っていたのに。  退院した日、早めに帰って来た陽介に離婚を切り出した。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながら陽介は眉間にしわをよせた。 「はあ? するわけないだろう。なにいってるんだ」  なにいってるんだはこっちのセリフだ。玲奈は呆然とする。逆になぜ離婚しないのだ。とっくにこの結婚生活は破綻しているというのに。 「あんただって離婚してあの女といっしょになりたいんじゃないの?」 「はあ? アヤカといっしょになる気はないよ」  心底驚いた。 「それじゃあ、離婚しないでずっと不倫つづけていくの?」 「アヤカとはそのうち別れる」  あまりの勝手ないい分にあきれ果てた。今までさんざん人をバカにしておいてなんといういい草。 「そんなの信じられるわけないじゃない!」 「なぜ。俺が愛しているのは玲奈だけだよ」  やけに冷静に陽介がいった。  ぞわり。  体中に鳥肌がたった。はたしてこれは自分の知っている陽介だろうか。話がまるでかみ合わない。宇宙人を相手にしているようだ。  そのままじっと見つめられると、底知れぬ恐怖がわき上がってくる。一歩こちらに向かって踏みだされると、たまらずにバッグをあさってスタンガンを取り出した。 「なんだ、それ」 「よ、抑止力よ」  そういって、スタンガンを握りしめる。 「ふうん」  陽介は歩みを止めた。 「そういうおまえこそ、いっしょになりたい男がいるんじゃないのか」 「はあ? なにいってるの。あんたといっしょにしないでよ」 「ふん。いうこともいっしょなんだな」 「誰と」 「社長だよ。おまえの会社の」  いわれてもピンとこない。すこし考えて社長というのが涼太郎だと思いつく。意外なことをいわれて玲奈は目をみはる。 「なんでそうなるの?」 「入院したとき、俺を排除したからな」 「あんたが原因なんだからしょうがないでしょう。それにあのときは摩季もいたでしょ」 「そうか。じゃあ、こっちか」  そういって、スマホの画面を玲奈にむけた。  たぶんそうするだろうな、とは思っていた。陽介がむけたのは、.futureのインスタだ。玲奈と悠人が抱きあうような形でうつっている。なんだかあまりにも予想通りで、次のセリフまで予想できてしまう。 「それ、仕事だもの」 「だからって、こんなに密着するか? おかしいだろう」 「摩季の要望だもん」 「ていうか、アパレルの広報ってなんだ。モデルやってるんじゃないか。急に派手になったと思ったら。病院だって個室だったし、会社持ちっていうからおかしいと思ったんだ。どうして黙ってたんだ」 「いちおう広報よ。専属なので。EVEがわたしだって、極秘事項だからね。バラしたら訴訟になります」  陽介はおもしろくない。 「夫婦で隠し事って、おかしいだろう」  どの口がいうのだろう。玲奈はもう口をきく気にもならない。 「ああ、あの女は隠し事じゃないんだ。じゃあもし、わたしが涼太郎か悠人とデキてたとしたら隠さなければいいの? あんたみたいに」 「だからアヤカとは別れるって」 「それでわたしが、受け入れると思ってるの? もう無理よ。やり直す気はないから」 「ぜったいに離婚はしない! そんな勝手は許さないからな!」  そういい捨てると、陽介はシャワーを浴びに浴室に行ってしまった。
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