729人が本棚に入れています
本棚に追加
離婚はしない! はあ?
「離婚したいの」
はっきりとそう告げたはずだった。そういわれれば陽介も二つ返事で了解すると思っていたのに。
退院した日、早めに帰って来た陽介に離婚を切り出した。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながら陽介は眉間にしわをよせた。
「はあ? するわけないだろう。なにいってるんだ」
なにいってるんだはこっちのセリフだ。玲奈は呆然とする。逆になぜ離婚しないのだ。とっくにこの結婚生活は破綻しているというのに。
「あんただって離婚してあの女といっしょになりたいんじゃないの?」
「はあ? アヤカといっしょになる気はないよ」
心底驚いた。
「それじゃあ、離婚しないでずっと不倫つづけていくの?」
「アヤカとはそのうち別れる」
あまりの勝手ないい分にあきれ果てた。今までさんざん人をバカにしておいてなんといういい草。
「そんなの信じられるわけないじゃない!」
「なぜ。俺が愛しているのは玲奈だけだよ」
やけに冷静に陽介がいった。
ぞわり。
体中に鳥肌がたった。はたしてこれは自分の知っている陽介だろうか。話がまるでかみ合わない。宇宙人を相手にしているようだ。
そのままじっと見つめられると、底知れぬ恐怖がわき上がってくる。一歩こちらに向かって踏みだされると、たまらずにバッグをあさってスタンガンを取り出した。
「なんだ、それ」
「よ、抑止力よ」
そういって、スタンガンを握りしめる。
「ふうん」
陽介は歩みを止めた。
「そういうおまえこそ、いっしょになりたい男がいるんじゃないのか」
「はあ? なにいってるの。あんたといっしょにしないでよ」
「ふん。いうこともいっしょなんだな」
「誰と」
「社長だよ。おまえの会社の」
いわれてもピンとこない。すこし考えて社長というのが涼太郎だと思いつく。意外なことをいわれて玲奈は目をみはる。
「なんでそうなるの?」
「入院したとき、俺を排除したからな」
「あんたが原因なんだからしょうがないでしょう。それにあのときは摩季もいたでしょ」
「そうか。じゃあ、こっちか」
そういって、スマホの画面を玲奈にむけた。
たぶんそうするだろうな、とは思っていた。陽介がむけたのは、.futureのインスタだ。玲奈と悠人が抱きあうような形でうつっている。なんだかあまりにも予想通りで、次のセリフまで予想できてしまう。
「それ、仕事だもの」
「だからって、こんなに密着するか? おかしいだろう」
「摩季の要望だもん」
「ていうか、アパレルの広報ってなんだ。モデルやってるんじゃないか。急に派手になったと思ったら。病院だって個室だったし、会社持ちっていうからおかしいと思ったんだ。どうして黙ってたんだ」
「いちおう広報よ。専属なので。EVEがわたしだって、極秘事項だからね。バラしたら訴訟になります」
陽介はおもしろくない。
「夫婦で隠し事って、おかしいだろう」
どの口がいうのだろう。玲奈はもう口をきく気にもならない。
「ああ、あの女は隠し事じゃないんだ。じゃあもし、わたしが涼太郎か悠人とデキてたとしたら隠さなければいいの? あんたみたいに」
「だからアヤカとは別れるって」
「それでわたしが、受け入れると思ってるの? もう無理よ。やり直す気はないから」
「ぜったいに離婚はしない! そんな勝手は許さないからな!」
そういい捨てると、陽介はシャワーを浴びに浴室に行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!