第十五話 十二万年後のメリー・クリスマス

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 ガタッと軽い振動を感じた直後、天井に黒い裂け目が現れた。壁が両側に移動を開始した。露わになった強化ガラスの向こう側は、漆黒の宇宙――ではなかった。  星々を見るために消灯するつもりだったが、必要なかった。暗いはずの船外からは、想定外に明るい光が差し込んできた。  ニギは思わず眩しさに目を細める。実際は、それほどの照度ではないのかもしれない。虹彩の調整が追いついていないだけだ。  次第に明るさに慣れてきたニギは信じられないものを目の当たりにした。 ――!!  光の正体は恒星だとの予測が裏切られる。ニギの見開かれた瞳が捕えたのは、二つの銀色の物体だった。窓の右側と左側から覗き込むように船内を見下ろしている。 ――これは……見覚えがある! そう、小学生の頃だ。  今となっては曖昧な幼い頃の記憶を探索する。  クリスマスに、父さんと母さんから貰った………間違いない! 銀色の直方体をした頭を持つ二体のロボット。安っぽい外観はまるでブリキの人形だ。  朝、ベッドから起きると枕元に大きな袋が置かれていた。兄と一緒に開けると、それぞれの袋に入っていたロボット。  流行りのおもちゃでないことに落胆し、両親に不満を投げかけた。 「サンタクロースがどうやってプレゼントを選んだかなんて、知らないわ」  母さんは、はぐらかした。  結局、僕らはロボットを戦わせて、ボロボロになるまで遊んだ。いつの間にか遊ばなくなったけど、どこに片付けたのだろう?  ニギは長い旅路を回顧する。これが走馬灯というものか。  ――十二万と、二千四百年。  これが、旅した期間。星の一生に比べると些末なほど短期間だが、人間のニギにとっては気が遠くなるほど長い。  ニギは骨と皮だけになった細い腕をヨロヨロと持ち上げた。小刻みに震えながら開いた手のひらは、窓へと吸い込まれる。 「父さん、母さん……コノもそっちに居るよね。今度、紹介するから」  ニギは満足だった。幻想的な光景に手を伸ばすことしかできないが、最高のクリスマス・プレゼントを貰った気分だった。  何かを掴むように手のひらを閉じたあと、ニギの腕はベッドへ落ちた。静かに閉じられた(まぶた)は、もう開くことはなかった。  ブンと機械音が鳴り、ニギの体内に防腐剤が注入されていく。 「寂しいって、こういう気持ちなのね。おやすみ、ニギ。天国の私によろしく……」  静まり返った船内に声が虚しく響く。そして、コノはスリープモードへ入った。
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