第十六話 氷川様は、酒が飲みたい!

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第十六話 氷川様は、酒が飲みたい!

 ――ケチらないで、タクシーで帰ればよかった。  後悔先に立たず。  私は、明らかに『不良』と呼んでいい三人組に囲まれていた。二人が両脇で腕をつかみ、一人が私の正面でいやらしい笑みを浮かべている。  駅から自宅までの距離は約二キロ。自宅があるのは郊外の住宅地。自然が比較的多く残っているエリアだ。駅から自宅までの道のりの途中には、人通りが少ない公園がある。  ガラが悪い連中が出没していると聞いていたのに、タクシー代をケチって歩こうとしたのが失敗だった。 「車に入れろ!」  正面にいる不良その1が二人に指示した。  ああ、何でこんなことになっちゃったの!? 誘拐? それとも、車の中であんなことや、そんなことをされちゃうの?  現在、三月三十一日の夜九時。大学の女友達に、誕生日祝いの食事会を開催してもらった帰り。私の誕生日は、四月一日。エイプリルフール。嘘みたいな本当の話。  小さい頃は、誕生日がこの日なのが嫌だった。小学生の頃は、揶揄(からか)われることもあった。  この事件が、明日だったら「エイプリルフールの嘘でした!」みたいなオチもあったかもしれない。 「嫌!!」  私は二人の男に掴まれた手を振り払おうと力を込める。でも、運動オンチの私の力ではビクともしない。 「逆らうと、兄貴を怒らせるぞ」  兄貴!? まだ誰かいるの?  私は近くの暗がりに止まっていた大きなバンに視線を向けた。スモークが掛かった窓の向こうに男の人影。不良は三人じゃなく、四人。詰んだ。  つるんでいる女友達は、私以外、みんな彼氏持ち。私は「誕生日は、彼氏と過ごすから」と見栄を張って、お祝いの会を前日にしてもらった。  こんな、クソ連中に私の初めてを奪われるくらいなら、先週、告白されて断ったモヤシみたいな男子のほうがマシ。  考えるだけ無駄か。周囲は人気(ひとけ)のない裏通り。近くに民家はない。武器も持っていない。私は抵抗をやめ、目を閉じた 「コイツ、諦めたみたいだぞ」  腕がグイっと引っ張られた……。  さようなら、私の青春。
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