第三十一話 僕とオレ

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* * * 「直樹……よかった」  体の上に誰かが覆いかぶさってきた。  僕はベッドの上に横たわっていた。 「痛いよ」  乗っかってきた誰かの体を突き放す。 「母さん、心配で、徹夜で付き添っていたのよ」  僕の脇で涙を流すその女性は、まぎれもなくお母さんだった。その脇に立っているのはお父さん。 「もう、家出なんてやめてくれよ」 「僕、病院へ……」 「もう心配はいらないわ。特効薬ができたのよ。寝ている間に打ったから。病気はもう、治ったのよ」  お母さんが涙をボロボロとこぼした。  僕はその顔をマジマジとみて、こう言った。 「病気が治ったんじゃないよ。僕は、生まれつき病気じゃなかっただけ」 (了)
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